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「先輩、そこはダメです! 距離が近すぎます!」

雪菜は顔を真っ赤にして、両手でしっかりと自身の胸元を隠した。静寂な冬の山間に、彼女の甲高い声が木霊する。

「悪かったよ。湯加減を確認しようとしただけだって。足元が滑ったら危ないだろ」

俺は苦笑しながら、冷や汗を拭った。目の前で湯船に浸かっている彼女は、降り積もる雪に囲まれた露天風呂の中で、これ以上ないほど警戒心を露わにしている。

「温度確認なら私から報告します! 先輩は向こう側で……そう、もっとあっちの端っこで大人しくしていてください」

雪菜は少し拗ねたような表情で、ぷいっと顔を背けた。濡れた黒髪が真っ白な肩に張り付き、湯気に包まれていつもより少しだけ幼い雰囲気が漂っている。

「へいへい。でも、せっかくの雪見風呂なんだから、少しは会話くらい楽しもうぜ? 任務中とは違って二人きりなんだし、たまには息抜きも必要だろ」

「い、いいえ! これ以上近づくなら、容赦なく雪の塊を投げますからね!」

そう言って彼女は、湯船の縁に積もったふかふかの雪をすくい、小さな雪玉を作り始めた。その瞳は冗談ではなく、完全に本気だ。

「わかった、降参だ。大人しくしてるから、その雪玉は置こうな」

「ふん、最初からそうしてくれればいいんです」

彼女は少しだけ口元を緩め、ふう、と満足げに息を吐いた。白い息が冬の冷たい空気の中に溶けていく。殺伐とした任務とは無縁の、穏やかなひととき。雪菜は湯船の縁に頭を預け、どこか心地よさそうに目を閉じた。

「……先輩、ここ、なんだか温かいですね。雪の冷たさも、今は少しだけ心地よく感じます」

小さく呟いた彼女の表情は、冬の寒さを完全に忘れ去ったかのように、柔らかな火照りを帯びていた。

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