羽の行方
「おい、ちょっと待ってくれ!」
私は慌てて声をかけ、彼女の隣に追いついた。彼女はきょとんとした顔で足を止めた。紫色の瞳が、ゆっくりとこちらに向く。
「はい? もしかして、また羽を拾ってくださったのですか?」
「いや、拾ってない。というか、拾いきれないんだよ。君、歩くたびに羽が抜けすぎてないか?」
私は背後に続く白い軌跡を指差した。並木道がまるで雪の吹き溜まりのようになっていた。
「あら、本当ですね。少し気合を入れすぎたかもしれません」
彼女は自分の背中をトントンと叩いた。まるでチャックを確認するような動作だ。
「気合の問題か? これじゃあ、道行く人がみんな『何事だ』って顔してるぞ」
「それは困りましたね。環境美化に反しますか?」
「そういう問題じゃないだろ……。いいか、少しは慎重に歩いてくれないと」
「慎重に、ですね。わかりました。では、こうでしょうか」
ミルカは極端に内股になり、ロボットのようにぎこちない歩き方を始めた。カクカクとした動きのたびに、さらに羽が舞い散る。
「逆効果だよ! もっと散らばってる!」
「難しいですね。歩くという行為は、私には少し高難度すぎるようです」
彼女は小さくため息をつき、道端のベンチにちょこんと腰掛けた。その横顔のあまりの整い具合に、私はまたしても息を呑む。
「……ねえ、お腹空いてないか?」
「はい。実は、こちらの空気を吸っていると、少しだけエネルギーが足りなくなるようです」
「羽をバラ撒きすぎてるからだろ」
「ふふっ、確かにそうかもしれませんね。何か、ふわふわしたもの、食べたいです」
結局、私は彼女を連れて近くのパン屋へ向かうことになった。彼女は店先で一番柔らかそうなクリームパンを指差し、嬉しそうに目を細める。
「これにします。一緒に食べてくれますか?」
「ああ、もちろんだよ」
ベンチに並んで座り、パンを分け合う。羽が舞い落ちるたびに、周囲の人々が目を丸くして通り過ぎていく。私はもう諦めて、舞い降りた羽を拾い上げることに専念することにした。
「なんだか、今日はすごく充実してるな」
「私もです。……ねえ、この羽、お礼に全部差し上げますね」
「いや、全部はいらないよ!」
ミルカは茶目っ気たっぷりに笑った。この不思議な女の子との日々は、しばらく退屈しそうにない、そんな予感がした。
呪文
入力なし