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ゆきの行き先 (NAI Remastered)

使用したAI NovelAI
「……なんなのよ、これは」
「何って。見りゃわかるだろ。肉まんだよ、に・く・ま・ん」

一番最初のやり取りは、確かこんな感じだったと思う。
その日はよく冷えた冬の夜で、天気予報じゃ今年一番の冷えこみだとか言っていたことをおぼろげに記憶している。

そんなクソ寒い状況にもかかわらず、目の前のこいつはコートも着ず、マフラーもせず、コンビニ前にある駐車場の車止めポールの上にぽつねんと腰かけていたのだ。
買ったばかりでまだ温もりが残ってる紙包みを、戸惑う少女に無理くり押しつけてやる。ほら見ろ、言わんこっちゃない。鼻の頭なんてすっかり赤くなってるじゃないか。

「なあお前、中坊(チューボー)か?」
「失礼なこと言わないで。これでも、れっきとした高校生よ」

むしろ中学生だと思ったのは彼女が制服姿だったせいで、そうでなかったら小学生にしか見えない……というのは、言わぬが花というやつだろう。高めの位置で結われた細身のツインテールが、なおさら彼女の幼さを際立たせている。

「それで? これをやるから俺の家にでも来ないか、とか言うんじゃないでしょうね?」
「馬っ鹿かお前。んなことしたら、一発で事案じゃねーか」
「こうして声かけてる時点で、もう十分アウトだと思うけど?」
「……言われてみりゃ、そうかも知れん」

なるほど。今の俺はコンビニ前で黄昏《たそが》れている女子高生(自称)に声をかける、怪しげなリーマンのおっさんそのものって訳だ。

「それとも、なに? あなたは別に下心がある訳じゃなく、純粋に善意でわたしに声をかけてきたとでも? わざわざ、レジで肉まんまで買ってきて?」
「善意なんて、そんな大げさなもんじゃない。もっと単純な……そう、単なる気まぐれだよ、気まぐれ」

酔っ払いの行動にいちいち整合性なんて求めないで欲しい。
念のため言っとくが、俺は道端で見ず知らずの少女にホイホイと声をかけられるナンパ野郎などでは断じてない。
仕事でむしゃくしゃして痛飲した帰り道に、たまたまこいつの姿を見かけてしまっただけなのだ。酔っ払って気が大きくなっているからであって、シラフじゃ絶対にこんな真似はしない。

「くしゅんっ」

ああもう、本当に見てらんないなこいつ。俺は巻いてたマフラーを外すと、ぐるぐると少女の首にかけてやる。

「ちょ……な、何すんのよ。ってか何これ、お酒くさっ!?」
「他人からのお下がりに文句言うな。いいから、何も言わずにもらっとけ」
「も、もらっとけって……。こんなことしたら、そっちだって寒いんじゃないの?」
「いんだよ、俺は。だいいち俺ん家、こっから近いしさ」

少女は毒気を抜かれたように呆気に取られていたが、やがて大げさな身振りでため息をついてみせた。

「……そっか。ようするにお兄さん、いい人なんだ」
「なんか、馬鹿にされてるようにしか聞こえないんだが」
「してんのよ、実際に」

憎まれ口を叩く彼女の表情は、しかしさっきより多少は柔らかくなったような気がした。

「んじゃま、俺はそろそろ帰るとするわ。お前も風邪ひく前にとっとと帰れよ」
「はいはい」

そうやって答える少女の口調はおざなりで、こりゃ当分は帰る気ねえなと思いつつ俺は家路を急ぐことにした。この場に残していくのも気がひけるが、これ以上は明日に響いてしまう。社畜の朝は早いのだ。
ふらふらと酔いどれたまま自宅のマンションに辿り着き、適当にシャワーを済ませて布団の中へと潜りこんだ。

そして、翌朝。
ガンガンと響く二日酔いの頭で寝床を見回した俺は、傍らに脱ぎ捨てたスーツ一式の中に通勤用のマフラーがないことからあれが夢でなかったと悟り。自分のらしくない行動にしばし、身悶えするのだった。

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