森の妖精と泥だらけの訪問者
俺、冒険者のテオは、森の奥で言葉を失っていた。木漏れ日が揺れる池の中、透き通るような薄衣を纏った少女が佇んでいる。その神々しいまでの美しさに、俺は心臓の鼓動が耳元まで響くのを感じた。
(いかん、不法侵入で即刻処刑されても文句は言えねえ。でも、目が離せねえんだ!)
必死に気配を殺し、茂みに同化していたつもりだったが、エルフの感覚は人間の想像を超えていた。
「……そこにいるのは誰ですか? 出てきなさい、この不届き者!」
凛とした声に射抜かれ、俺は思わず飛び起きた。
「ま、待て! 決して怪しい者じゃない。俺はただ、道に迷っただけの通りすがりの冒険者だ!」
「嘘をつきなさい。冒険者がそんなに顔を真っ赤にして、草むらで固まっているはずがありません。大体、その泥は何なんですか?」
「これは……その、だな。高度なカモフラージュ技術だ。一流の冒険者は環境に溶け込むもんだ」
俺が必死に虚勢を張ると、少女は呆れたように溜息をついた。
「一流の冒険者さんが、肩に巨大な毒虫が這い上がっていることにも気づかないんですか? あ、首筋まで行きましたよ」
「……は? ど、毒虫だと!?」
一気に血の気が引いた。毒はまずい、死ぬ!
「うわあああ! どこだ、どこにいやがる!」
俺は無様にのたうち回り、そのまま池へと派手に転げ落ちた。そこへ、彼女が召喚した特大の水球が容赦なく顔面に直撃する。
「……冗談ですよ。ただの枯れ葉です。本当に、人間の冒険者さんはおめでたいですね」
「ぶはっ! ……お、お前、わざとやったな!?」
ずぶ濡れで鼻に水が入って悶絶する俺を、少女は意地悪く、でも少しだけ楽しそうに笑って見下ろしていた。その笑顔がまた反則的に綺麗で、俺は結局、言い返す言葉を忘れてしまった。
呪文
入力なし