ご主人様と三人のメイド 終章その3「元凶」 前編
「では、少しの間ですがよろしくお願いします」
天使達が告げた……イノリの実の母親に会いたがっているという
言葉は少なからずこちら側に動揺を与えた。
「……。お母さん……い、生きているのですか?」
「はい」
イノリの問いにただ短くそう答える。この天使達は何と言うか、
感情が薄いのだろう。こちらの動揺を気にすることなく言葉を紡ぐ。
「とある事情により……離れ離れにならざるを得なかったのですが
ずっと捜索はしていました」
事情……か。そこらも含めて聞きたい事は色々あるがどうしたも
のかと考える。
「とはいえ、突然の来訪でもありますし、こちらにも事情がありま
して申し訳ないのですが、数日ほど時間をいただきたいのです」
その問いに僕とイノリは……驚きつつも何とか平静を装って承諾
をした。そして。
「確か人間の言葉には働かざるもの食うべからずという言葉があり
ましたね」
そう言って彼女達は数日ほどメイドとして働くことになった。
翌日の夜
屋敷の大部屋に関係者……トワ、イノリ、クオン、そして二人の
父親と僕が集まり事情を聞くことにになった。
「先に結論を述べるなら、イノリ様のお母様は普通の人間です。
ただ、少々特殊な血を引いております」
「それは……その」
「"聖女"と呼ばれたとかつてこの世にいたとされる存在の血です」
「ちょっと待った……それはおとぎ話とかに良く出てくる聖女で
良いだろうか?」
近いうちに……義父となる人の質問に彼女達は静かにうなずく。
「そうです。今も称号的な存在としての扱いはあるようですが、
間違いなく存在していました」
聖女、それは神に選ばれし乙女であり、同時に神聖なる存在。
つまり生涯において純潔を守り通す存在とされており、過去には
居たとしても子孫は存在しないとされている。
「聖女の定義はそれぞれなので置いておきましょう。その血と力を
狙い……とある存在が現れたのです」
「とある存在……それは一体?」
天使の少女たちは顔を見合わせ一呼吸おいてその存在を告げた。
「魔女です」
過去
産まれて間もない赤子を抱いている女性とそれに寄り添う夫の
前に突如それは現れた。
「ようやく見つけたわ……この世界の聖女」
「あ、貴女は……」
「怖がらなくても良いわ。貴女の血と力。あぁ、まだ覚醒はして
ないのね。なら余計に好都合だわ。すぐにおわ……」
「妻に手は出させな……ぐっ、ぐぁぁぁっ!!」
本能か、危険を感じ咄嗟に殴りかかろうとして夫を魔女は見えな
い力で吹き飛ばす。
「あなたっ!!」
「ふふっ、大人しくしていれば命は取らないし、すぐに終わるわ。
すぐに……ふふふっ」
現在
「その時に何があったのかは……想像にお任せしますが、結果、
貴女のお母様は聖女へ覚醒し魔女を退けはしたそうです」
「退けはした……ですか」
「ただ、戦いの最中、お母様はイノリ様を守るため、覚醒した力で
安全な場所へと一時的な避難をさせようとし、魔女がそれを妨害
した結果……現在に至ると言うわけです」
事情は理解したが分からない事もまだある。
「一つ聞きたい。君達やイノリの母親はどこに住ん……いや、普段
はどこに存在している」
「ら、ライ……さん?」
父の話が正しいなら天使や悪魔は人に紛れているともいう。だが、
ここに至るまでその存在を見たことはなかったし、ろくな目撃証言
も集まった事はない。
だが、今回空から二人はやってきた。つまり……それは。
「ご想像にお任せしたいところですが、正直に言いましょう。この
世界とは少しだけ違う世界。俗に言う並行世界と呼ばれるところ
に今はお母様は居ます」
「……」
「この世界にも少なからずは居るようですが、私達の世界では、
普通に天使や悪魔も出歩いては居ます。まぁ、純粋な人間の方が
少ないとも言えます」
「イノリ様のお母様に関しては、普通の人間でしたが、魔女との
やり取りで覚醒した後……」
その言葉に続いて全く別の声が響き渡る。
「あらゆる世界を観測する天使の存在になった……よねぇ」
「何者っ!?」
それは突然現れた。人払いをしていたはずの部屋の中に、突如
一人のメイドが現れた。
「貴女は……ハルカさん?」
最近雇ったメイドだったが、あからさまに雰囲気がおかしい。
調べた限りは普通の家の出で特にも問題はなかった。だから、
雇ったのだが。
「ふふっ、一度潜り込んでしまえば、どんなに防御が優れた場所
でも意味はない。この私の前ではね」
「……。そういう事ですか。普通の人間を依代にして、この世界で
活動していたのですか、魔女っ!!」
「流石、聖女の分身体と言うべきかしら。呑み込みが早いわね」
何となくだが把握は出来た。つまりハルカ自信は普通の人間だが
魔女が何かしらの形で操るなり憑りつくなりしていること言う訳だ。
「正解、この子の魂にちょっと憑りついてるだけよ。あぁ、普段は
素の状態だから問題ないわよ。ただ、今はこの子の意識は眠って
いて、魔女である私が前面に出ているだけよ」
「その子を解放しろっ」
「ええ、良いわよ。ここに潜り込んでいればいずれ接触するだろう
と大人しくしていただけだしね」
そう言うと、ハルカの身体から黒い靄が吹き出しやがてそれは、
人の形をなしていく。
「ふふっ……初めまして。私が魔女よ」
「き、君は……いやっ、貴様はっ!!」
「お父さん?」「お父様?」
「ふふっ、貴方とは二度目ね。どうだったかしら? 長年に渡り、
義理の娘に性的な悪戯をして、そして実の娘の身体にも」
その言葉を言い終わる前に義父は魔女に殴りかかり……そして、
一気に壁へと吹き飛ばされた。
「ぐはぁっ!!」
「お父さん!!」「お父様っ!!」
「たかが人間が私に勝てると思っているのかしら。ふふっ」
「お前は……親父さんに何をした」
「あら、ご主人様こわーい。怒りに任せて攻撃しない辺りは合格だ
けど、そこのクオンも内心は腸煮えくりかえってるようね」
「ええ、ここまで怒りを覚えたのは初めてですよ」
「クオン、悪いが」
「ええ、お任せください」
義父とトワとイノリをクオンに任せつつ……改めて魔女と対峙を
する。
呪文
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