【マタタビ】19.最深部
【マタタビ】18.それぞれの目的
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俺たちは、長い時間をかけてルースト005の地下大都市の通路を進み、ついに、最深部に辿り着いた。道中、熊のようにデカいネズミに遭遇したり、シロがはぐれて迷子になったり、いくつかのトラブルはあったが、なんとかここまで来ることができた。
最深部の扉には、電子錠でロックがかかっていた。サーバルームだから当たり前だが。
「シロ、扉を壊せるか?」
「やってみる」
シロは、ガントレットを巨大化させ、複数回扉を殴りつける。徐々に扉は歪み、シロのパンチに耐えきれず、扉が吹き飛ばされた。ぽっかりと壁に空いた穴から中に入る。
部屋の中は薄暗く、所狭しと並んだサーバラックがタワーのようにそびえ立っていた。サーバの電源は入っておらず、しんと静まり返った部屋に俺たちの足音だけが響く。部屋の中央に辿り着くと、そこには、サーバ群に接続された巨大な機械が静かに佇んでいた。
「これが、星の樹の情報を知る人工知能?」
シロは、その機械を見上げ小声で呟いた。眠った機械の前には、操作盤らしきものがズラリと並んでいたが、何をどう操作すればいいのか、さっぱり分からなかった。俺とシロがお手上げ状態になっていると、グリレが呆れながら言った。
「君たちは、サーバルームに辿り着いた後のことを何も考えていなかったのか?」
そして、背負っていたリュックサックを下ろして座り、中からケーブルや小型のデバイス、大型のバッテリーのような機械を次々と取り出す。それから慣れた手つきでそれらを眠った機械に接続し、手元のデバイスで操作し始めた。
「この人工知能は、終末前の文明のデータが詰まった大規模データサーバに接続されている。僕たちが求める情報について、きっと知っているはずだ」
グリレはそう言いながら、人工知能の再起動プロセスを開始した。
「動かせるのか?」
俺が聞くと、グリレは当然だと言うように答えた。
「そのために、僕がここにいる」
しばらくすると、ブゥンという起動音がして、眠っていた機械が目を覚ました。人工知能の前に設置されていたディスプレイに文字や数字が次々と現れる。
「よし、正常に起動できたようだ。これから、神の繭について確認する」
グリレはそう言うと、接続したデバイスをとおして人工知能としばらくやり取りを交わした。やがて、一枚の写真がディスプレイいっぱいに表示された。
「あった、これだ!」
グリレは興奮しながら言った。その写真には、広い格納庫のような部屋と、そこに鎮座する卵のような白く光る物体が写っていた。
「これが……神の繭?」
俺はディスプレイを見上げ、写真を凝視する。
「間違いない。僕たちが特定した大富豪の姿も写っている」
グリレが写真を切り替えると、ディスプレイに立派な髭を生やした老人が映し出された。さらに、別の写真には、その大富豪と共に、研究者のような人間やシンカロンたちが写っていた。
「この場所は……宇宙ステーションの中か?」
グリレは呟きながら、写真に写った窓の外を拡大する。そこには、宇宙空間と大きな青い星が写っていた。
「神の繭が宇宙ステーションにあるなら問題ないんじゃないか? 神格が復活しても地球には影響ないだろ?」
俺が楽観的に言うと、グリレは否定した。
「いや、そうでもない。確かに神の繭は、終末事変直前まで、写真に写っている宇宙ステーションの中にあったのは間違いないだろう。だが、写真の日付が、2084年7月で途切れている」
そう言ってグリレは、最後の写真の詳細情報をディスプレイに表示する。
「終末事変の影響で通信装置が壊れて、写真を送れなくなったんじゃないのか?」
「事態は、より深刻だ。宇宙ステーションの軌道履歴を見てくれ」
グリレは別のファイルを開き、宇宙ステーションの軌道履歴をディスプレイに表示する。
「高度が……下がっている?」
ディスプレイに表示された宇宙ステーションの軌道は、時間の経過と共に地球に近づいていた。
「そうだ。そしてそのまま高度は下がり続け、大気圏に突入している。つまり——」
グリレは、声を震わせながら言った。
「神の繭を乗せた宇宙ステーションは、地球に落下したんだ」
「どこに落下したんだ? まさか……」
俺は、悪い予感がした。予言のことが頭をよぎる。
「残念ながら、そのまさかのようだ。最後に記録された宇宙ステーションの軌道履歴から、落下の角度を割り出すと、その落着点は——ここ、ニューナゴヤだ」
グリレは、デバイスを操作し、ディスプレイに一つの座標を示した。そこには、ニューナゴヤの一角が示されていた。
「この座標に、神の繭があるのか……」
俺は、その座標を脳内メモリに記録する。後ろから、シロが身を乗り出してきた。
「そこに行けば、星の樹が見られるんだね!」
事の重大さを分かっていないシロは、能天気に言った。いい気なものだ。だが、神の繭の話をシロに説明したところで、話の半分も理解できないだろう。俺の気持ちは、事の重大さに沈んでいたが、グリレは、気持ちを切り替えるように自分の頬を叩いて、立ち上がった。そして、俺とシロに言った。
「クロ、シロ。君たちの協力に感謝するよ。おかげで、神の繭の在処を特定することができた」
「それはお互い様だ。俺とシロだけじゃ、眠った人工知能の前で何もできなかっただろう」
俺も、感謝の言葉を返す。グリレは、手を差し出し、握手を求めてきた。だが、あいにく俺は猫の手だ。俺は、視線でシロと握手をするように促した。シロは、差し出されたグリレの手を握り返す。
「あ、シロちゃんと握手! いいなー、俺も!」
そう言ってグリルスも、シロの空いた手を握った。
「ありがとね、シロちゃん!」
シロは、戸惑いながらも、嬉しそうだった。俺は、その光景を微笑ましく見ていたが、ふと、視線を感じ振り返った。しかし、そこには、シロが作った壁の穴がぽっかりと空いているだけだった。気のせいか。俺は、シロたちに声をかける。
「喜んでいるところ悪いが、これから、来た道を地上まで戻らなきゃならない。食事を取って、少し休んだら出発するぞ」
俺たちは、リュックサックから携帯食を取り出して一緒に食事をした。そして、一休みし、最終目的地の落着点へと向かう準備を整えた。
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(次の話)
【マタタビ】20. 越夜隊の暗躍
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