鉄鬼夜行
多くの兵を失い、装甲を纏った軍勢の威厳は泡沫の夢と消えた
ーウェスティリア国境付近
犠牲を払いながらも侵攻を食い止め、グランゼンに甚大な被害を与えたウェスティリア軍。
密偵の報告によりグランゼンの再侵攻は早くとも数週間ともあり、今宵ばかりは勝利の美酒に酔いしれていた。
「皆よく戦った!ウェスティリアの勝利に、乾杯!」
「おいおいデイヴ、勝利って…まだ戦争は終わっちゃいねぇんだぞ?
まぁ、デイヴにかかればグランゼンなんて赤子同然…ってか!」
デイヴと呼ばれたその男は陽気に酒を呷り、仲間達を労った
彼こそ今回の国境付近での勝利に一役買った功労者である
仲間の危機に駆け付け、颯爽と敵を葬る。
持ち前の明るさとユーモアもあってか、仲間内からは英雄視されていた。
しかし彼も人間である。全員を守ることなど出来るはずもなく、数名の仲間はグランゼンの凶刃に倒れた。
「トール…ヘイズル…レイン…ドゥーラ…ウェイン…」
散って行った仲間の名前をひとりひとり、大切そうに呟くデイヴ。
その声は宴の喧騒でかき消され、誰にも聞こえることは無い。いや、聞かれてはならない。
こんな弱気な姿を仲間たちに見せるわけにはいかない。仲間達から少し離れた場所に移動するデイヴ
「なぁ、クリス…見てるか。お前の言いつけ、ちゃんと守ってるぞ」
クリスは騎士団時代の同期である。聡明で冷静沈着、真面目を絵に書いたような人物だ
デイヴが少々乱雑な一面もあってか、クリスの説教なんて日常会話であった
「デイヴ!騎士とは民を、王を、国を、"護る"為に戦うんだ。ただ目の前の敵を倒せばいいのではない!
撃ち漏らした敵が味方の方へ行かないか、苦戦している味方はいないか、周りを見るんだ!
仲間とて騎士である前に民である!仲間を守ることも大事な騎士の務めだ!」
幾度となく聞いたクリスの説教だ、今もこうしてハッキリと思い出せるくらいに頭に残っている。
クリスは中隊長として開戦時、最前線で戦場で指揮を執っていたが隊はほぼ壊滅。数名の騎士がなんとか生き残ったと聞いた。
かつての同期の無事を信じて、いや、無事だと言い聞かせるように言いつけを自戒の念とした。
「おーい!デイヴ!なぁーにそんなところで飲んでんだぁ、みんなお前を待ってんだ!」
仲間たちがデイヴを呼ぶ、その声が今は何より心地よかった。
ー「だぁからー、俺がぜぇーんぶ守ってやっから!大船に乗った気持ちでまぁかせろー」
「デイヴも出来上がってきたなぁ!よっ!英雄様!勇者様!」
だいぶ酒が回ったデイヴだったが、一瞬寒気を感じた
「ちょっと小便してくらぁ」
ー国境付近の森
「よっと、、ここらへんでいいか」
『デ…イヴ、デイ…ヴ』
その声にデイヴははっとする。耳が痛くなるほど聞いたことのある声だ。
「クリス!?クリスなのか!?」
声の出所を探し森の奥へと進むデイヴ、森を抜けた先はグランゼンとの国境だが
そんなことはお構いなしだった。クリスが生きていた、生き残った騎士はクリスだった
酷い怪我を負っているだろうという心配と、また会える期待がまじり、その足を速めていった。
森を抜け、デイヴは再会したー。
かつての友がそこにいた。仲間を葬ったグランゼンの鎧を身に纏ったクリスだった。
「おい…クリス!クリスなんだろ!?おい!どうしちまったんだよクリス!!」
変わり果てた友の姿を見て焦燥するデイヴだったが、クリスの背後を見て完全に心が打ち砕かれた
「トール…ヘイズル…レイン…ドゥーラ…ウェイン…」
守れなかった、散って行った仲間が そこにいた
グランゼン上層部のみ知る「人食い」
クリスもまた、人食いの実験体となった内の一人であったが
元々指揮官であった素質もあってか、ただ敵を貪るだけの獣ではなく
"知性"を持っており、屍を見つけては自らの鎧の一部を与え眷属とした。
さながら古代文献に残る「ヴァンパイア」と研究者は称した。
ウェスティリア国境軍は壊滅
デイヴただ一人を残して。
人食いに食われたクリス生前の記憶がそうさせたのかどうかはわからない
しかしそれはデイヴにとって最大の屈辱であり、約束を守れなかった証であった。
本国へ敵襲来の報告をするデイヴだったが、敵指揮官がかつての同胞では民に示しがつかぬと
彼はこう称した
「鉄鬼夜行」と
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