汚れなき黒き翼
「ねえ、おじさん。どうして誰も逃げないの?」
散歩中の老紳士に、ヴィオラは精一杯の威嚇を込めて尋ねた。老紳士は目を細めて微笑む。
「おや、可愛らしいコスプレだね。天使の迷子かな?」
「悪魔よ!魂を奪いに来た、恐ろしい地獄の使いなんだから!」
「はっはっは、それは怖い。じゃあ、このミルクキャンディで勘弁してくれるかい?」
「……今回だけよ。次は容赦しないんだから」
ヴィオラはキャンディを口に放り込み、頬を膨らませた。
「もう、魔界の教科書と全然違うじゃない。人間は悪魔を見たら震え上がるって書いてあったのに」
彼女は鈴蘭の影で翼を休めながら、独り言を漏らす。
「こんなに日差しが温かくて、花が綺麗じゃ、ちっとも悪いことが思いつかないわ」
ヴィオラはもう一度、通りがかる人々に鋭い視線を送ってみたが、返ってくるのは「可愛いわね」という温かい眼差しばかり。
「……ふん、こうなったら、この飴を全部食べてやるわ。これぞ悪の極致ね!」
彼女は夕暮れの浜辺で、世界一平和な「復讐」を誓うのだった。
呪文
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