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自作小説「想霊日和」第六話『幽霊の鎮め方 その2』

使用したAI ChatGPT
第六話『幽霊の鎮め方 その2』

 夕刻。
 夏の虫の声と、葉のこすれ合うざわめきが、山の斜面をすべり落ちてくる。
 三人は、言葉を交わさず、それをただ聞いていた。

 そのとき。
 時間が止まったような――そんな感覚に、詠士は包まれた。
 もちろん、錯覚だ。けれど、この世界の今この空間に、音のない空白がぽっかり開いたような気がした。

 ふと、祠に目を向ける。
 神崎詩音と八木正道、二人の表情がいつのまにか張り詰めていた。
 祠から、音が――声が漏れていた。

「ま……ぱ……」
「おとお……ば……ば」
「いき……た……」
「あ……そ……」

「呑まれないようにしてください」
 神崎が、微かに、詠士に囁いた。

 そのとき。
 祠の暗がりから、すっと“手”が現れた。

 真っ白で、傷一つない肌。
 だが、その細さは異常で、まるで骨と皮だけでできた赤子の腕のようだった。
 一本、二本、三本、四本……シワひとつない手が次々と、這うように祠からせり出すたび、ごっ、ぎぃと木造の床がきしむ。

「気をつけてくださいね」
 八木の声には、どこか慈しみと憂いが混じっていた。

「事前にお伝えしていた通りにお願いしますね」
 その言葉に、詠士は小さくうなずく。

「想霊体と、目を合わせない。返事をしない。呼ばない、ですね」

 詠士の言葉を最後に、空気が張り詰める。

  ぞろり、ぞろり――。
 二対ずつ節ごとに備わった手が、ムカデのように連なって、地を這う。
 その一つ一つが這い出るたび、**ぎしっ、ぎぃ……**と祠の基礎が悲鳴をあげる。
 ある瞬間、動きが止まる。
 どうやら、頭部が祠に引っかかっているようだ。

祠がギシギシと音を立てている

「……まるで逆子ですね」
 神崎が、ぽつりと呟いた。

 みしっ。
 祠に細かな亀裂が走り、ぐらりと揺れた。

 ごとん。

 その頭部が、ついに姿を現す。おそらく、直径一メートル近い。 石を転がすような重低音と共に、祠の奥から“それ”がずり出てきた。
 

 全身が柔らかく、弾力がありそうに見えるのに、ぞっとするほどに不気味に感じられた。

見た目と裏腹に、“それ”が動くたびに地面にのしかかるような重圧が走り、詠士は思わず膝に力を込めた。

 上下逆さに付いたその顔が特に異質だった。
 赤子の質感を持ちつつ、表情筋がしっかり発達し、口元や頬の線はまるで大人のよう。

 醜くはない。だが、決して愛らしくもない。
 その目が、潤んだまま――宙を見ていた。

「ど……あそ……おっ……」

 三人は、誰も返事をしなかった。
 そう決めてあった。そうするしかなかった。

 神崎が、静かに動く。
 腰から防霊帯を取り出し、ひと振りで目隠しのように想霊体の顔にかける。
 そして、柔らかい動きでお札を額に当てた。

 その一連の所作は、まるで舞のように静かで、美しかった。

 想霊体が、動きを止めた。

 八木が、掌に木片を持ち、ゆっくりと近づく。
 唇が動き、“言の葉”を紡ぎ始める。

「この地に縫われし傷、思いの名にて封じん」
「見えずとも、聞こえずとも、忘れず、抱かん」
「さ迷える子よ、さ迷える影よ、ここに眠れ、ここに還れ」

 言の葉――。
 詠士の耳には、それが子守唄のように聞こえた。
 母の声のようにどこか懐かしく、温かい。

 想霊体は、その言葉に従うように、頭部を下げ、ゆっくりと地面に伏せた。
 ぬるり、と地面に沈んでいくように、その姿は土の中に飲まれていった。

「……終わりましたよ」

 神崎の声に、張り詰めていた空気がほどける。

 八木が、小さく肩の力を抜いた。

 詠士は、目の前の二人を、尊敬の眼差しで見ていた。
 「祓う」ことだけが、全てではない。
 そう――確かに思った瞬間だった。

 山を下り、麓の舗装道へ戻ると、管理人らしき人物が東屋のそばで待っていた。
 白い帽子を軽く上げると、静かに言った。

「お疲れ様でした」

 三人はそろって頭を下げる。

「これでまた安心して暮らせます」

 軽い挨拶を交わし、管理人が去ると、山の静けさと虫の声だけが残された。

「すごかったです。あんなこともできるんですね……」
 詠士の声は、心の底からの感嘆だった。

「ええ。何も、霊気に霧散させて終わりにする――それだけが解決ではありません」
 八木がゆっくり答える。
 「意志が、残されていた場合には……その“行き場”を、こちらが考えねばならないのです」

「初めて対峙した時は、大変でしたね」
 神崎が懐かしむように微笑んだ。

「目を合わせたり、声に反応したり、名前を呼んだりすると……自分の背中に“赤子”が現れて、ものすごい重さになるのですよ」

「えっ……?」

「仰向けに倒されて、体が地面にめり込むほどです。最後には、全身が沈むように……あの子の下に埋まっていくんです」

 詠士は、思わず背中をさすった。

「……そんなに、恐ろしい想霊術を使ってくるんですね……」

「ええ。」

「でも、今回は詠士さんを連れてきてよかった」

 神崎の言葉に、八木も静かにうなずいた。

 詠士は、胸の奥がほんのり温かくなるのを感じた。
 自分が見て、知って、関わったこと――それが、たしかな“記録”になる気がした。

それと同時に、あの声たちが脳裏に残っていた。

「ま……ぱ……」「いき……た…ぃ…」
 言葉にならない、しかし確かに“存在を願う”声。
 その震える声が、詠士の奥底に静かに降り積もっていく。

 ――祓わずに向き合う。

 ただ、それだけで届く願いがあるのだと。
 今日の出来事が、想霊術の力ではなく、“目を向けること”の意味を教えてくれた気がした。

「……すごいですね。何もかもが」

 ぽつりと漏れた詠士の言葉に、神崎と八木が微笑む。

 山を包む風が少しだけ強くなり、木々のざわめきと、夏の虫の声が一層深くなる。
 夜の気配が、静かに地面を覆い始めていた。


2010年7月

大霊災まであと8ヶ月______



スペシャルサンクス 
とんとんとん様
https://www.chichi-pui.com/users/user_T88yuXxCZn/

昔に趣味で書いていた小説をアップさせていただきました。
完結はしていませんので続くを書いていきたいと思っています。
日曜日と木曜日の23時に投稿できたらいいなって思っています。
コレクションはこちら
https://www.chichi-pui.com/users/user_wwp7GEIwMb/collections/997693aa-a312-4f55-81e7-19e6d840fb41/

呪文

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