森の神秘
木漏れ日が水面に舞い、緑の香りと水音だけが響く秘境。
そこに一人の少女が立っていた。
長い金髪が濡れて背中に張り付き、髪には小さな白い花が一輪。
透き通ったエメラルドの瞳を細め、穏やかな微笑みを浮かべている。
彼女は衣服を知らない。
森に生まれ、森に育った存在だから、裸のままが自然だった。
今日も滝の浅い淵に腰まで浸かり、水をすくって肩にかけている。
冷たい水滴が肌を伝い、陽光にきらめく。胸をそっと隠すような仕草は、ただ水しぶきを避けるためのもの。
恥ずかしさなど、これまで感じたことはなかった。
けれど最近、少しだけ違う。
数日前のこと。
森の入り口近くで、迷い込んだらしい人間の青年を見かけた。
疲れ果てて木にもたれかかる姿を見て、そっと水を差し出した。
青年は驚いた顔でそれを受け取り、礼を言った。
そのとき、彼の視線が自分の体を一瞬見た後、慌てて逸らされ、顔を真っ赤にしたのを覚えている。
それが、頭から離れない。
「どうして、あんなに慌てたんだろう……」
水面に映る自分の姿を見つめながら、少女は小さく首を傾げた。
頰がほんのり熱くなる。胸の奥に、初めてのざわめきが生まれていた。
誰もいない森で、いつも通り裸でいるのに、なぜか両手で胸を覆う時間が長くなった。
滝の水が優しく体を撫でる。彼女はゆっくりと息を吐き、目を閉じた。
風が髪を揺らし、葉ずれの音が耳をくすぐる。
また、あの人が来ないかな。そんな思いが、ふと胸をよぎった。
すぐに自分でも驚いて、首を振る。
でも、心のどこかで、小さな期待が芽生えているのは確かだった。
水しぶきが上がり、陽光がそれを虹色に染める。
少女は再び微笑んだ。
まだ何も知らない、ただ純粋な好奇心だけを抱いて。
森はすべてを見守りながら、静かに時を刻む。
いつかまた、誰かがこの滝に辿り着く日が来るかもしれない。
そのとき、彼女はどうするのだろう。
胸に手を当てたまま、ただ微笑むだけか。
それとも、少しだけ近づいてみるか。
答えはまだ、森の風の中に溶けている。
呪文
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