うっかりさんの忘れ物
鏡の前でポニーテールを整えるのもそこそこに、朱音はバタバタと廊下を駆け抜けた。今日は楽しみにしていたパン屋さんの新作発売日。開店前に並ばないと、お目当ての「くまさんパン」が売り切れてしまうのだ。
「お財布、スマホ、エコバッグ……よし、完璧!」
お気に入りの白いオーバーサイズニットをバサッと被り、玄関のドアノブに手をかけたその時だった。背後から「あら?」というお母さんののんびりした声が響く。
「朱音、忘れ物じゃない?」
「もう、お母さん! 忘れ物なんてないってば。準備万端!」
自信満々に振り返った朱音だったが、視線を落とした瞬間に全身の血の気が引いた。ニットの裾から覗いているのは、いつものスカートでもデニムでもなく、水色のしましま模様。
「ひゃ、ひゃああっ!?」
慌てて両手で口を押さえ、顔を真っ赤にして固まる。
「あらあら、涼しそうでいいわねぇ」
「よくないよぉ! なんで!? 私、確かに履こうとしたよね!?」
「さあ? 椅子の上に脱ぎっぱなしだったわよ、そのスカート」
朱音はガクガクと膝を震わせながら、一歩ずつ後ずさりした。
「……もし、このまま外に出てたら……」
「伝説の『しましま勇者』として近所の有名人になれたかもね」
「そんな伝説いらないよぅ!」
朱音は脱兎のごとく部屋へ引き返し、今度こそしっかりと「下半身の装備」を整えるのだった。
呪文
入力なし