「…転んだ」
ウィスは呆けてしまった。機械の身体の奥底に宿る生身の心が、きゅうっと絞られたかのようになると、ぼっ、と熱を持ったように感じた。
「……」
レイは変わらぬ表情で体についた雪を払う。艶めかしさすら孕んだ細めた目は雪の反射が眩しいだけか、赤らんだ頬は単なる雪焼けによるものか。恐らくそうなのだろう。
だが、ウィスにはそんな事はどうでも良かった。これは彼女の気持ちだったからだ。
機械の国では、性別など些細な違いでしかない。
「…?」
いつまでもこちらを見てくるウィスにさすがに気付いたレイがわずかに首を傾げる。
「……レイ、結構鍛えてる感じだったから、意外かな、って」
口をついて出る言葉は、半分真実。
「…運動自体は、あまりしたことがない」
レイがいま一度ストックをぎこちなく握り、答える。
「それに、スキーなんてやった事がない」
「え、初めてだったの」
「ん」
ゴーグルをぐ、と下げて滑り始めるレイ。直後、バランスを崩してまた派手に転倒した。
呪文
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