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夕暮れ、
橙色の光がアヤナギ荘の和室へ差し込んでいた。

「……あぢぃ」

クロキは畳の上へ大の字になり、
ごろりと寝返りを打つ。

「エアコンまで行くのもめんどくせぇ……」

そう呟いては、またごろん。

縁側から吹き込む風だけが、
黒い髪をゆっくり揺らしていく。

「このまま床と一体化できねぇかな……」

猫のように丸くなったかと思えば、今度は仰向け。

畳の感触が妙に心地よく、
何もしない贅沢を満喫していた。

その頃。

「クロの字ー!」
「クロの字殿ー!」

廊下では、美鳥が部屋という部屋を覗き込んでいた。

「むぅ……留守ではあるまい?」

ぐぅぅぅ……

静かな廊下に、自分のお腹の音が響く。

「空腹とは、
 これほどまで判断力を鈍らせるものなのか……」

冷蔵庫を開けても、そこにあるのは食材ばかり。

「材料はある。だが料理人がいない!」

拳を握りしめ、美鳥は再び捜索を開始する。

そして数分後。

和室の襖が、すっと開いた。

「いたぁ!」
「……うぉ」

畳の上で転がっていたクロキが、
のそのそ顔だけ起こす。

「こんなとこで猫みてぇに転がっとったか」
「……なんか用?」

美鳥は満面の笑みで親指を立てた。

「腹が減った! 晩御飯を作ってくれ!」

数秒の沈黙。

「……結局それかよ」

クロキは小さく笑いながら立ち上がる。

「しゃーねぇな…」
「待ってました!」

夕暮れ色の和室を後にし、
二人は並んで台所へ向かうのだった。

呪文

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