子供の頃は気づかなかった #いま、この瞬間にしか咲かない青
わたしはレナ。
子供の頃のわたしにとって、紫陽花っていうのは『カタツムリが乗っている、雨の日のちょっと地味な花』くらいの認識だった。
お花屋さんで見かける薔薇やひまわりみたいに派手じゃないし、わざわざ足を止めてじっくり眺めるようなものじゃないって、ずっと思ってたんだよね。
だけど、青空がのぞいた梅雨の晴れ間。
散歩の途中でふと目に入った紫陽花の色に、わたしはまるで魔法をかけられたみたいに、その場に釘付けになってしまった。
ねえ、見て。
ただの『青』じゃないんだよ。
透き通るようなスカイブルーから、深い海の底みたいな濃いブルーまで、小さな花びらがいくつも重なり合って、芸術的なグラデーションを作ってる。
葉っぱに残った雨のしずくが、お日様の光を浴びて宝石みたいにキラキラ光っていて、胸が苦しくなるくらいに美しいの。
「レナ、何してるの? そんなところでしゃがみ込んで」
『……うん、なんでもない。ただ、紫陽花ってこんなに綺麗だったんだなぁって思って。』
今まで毎年見ていたはずなのに。
こういう、季節の移ろいとか、自然が作り出す繊細な色合いを『あぁ、美しいな』って心から理解できるようになるのって、ちょっと大人に近づいた証拠なのかな。
だけど、紫陽花がこうして一番綺麗な姿を見せてくれる時間は、驚くほど短い。
梅雨が終わって本格的な夏が来れば、この鮮やかな青はあっという間に色褪せて、枯れていってしまう。
そう思うと、なんだかこの眩しい景色が、すごく貴重で、ちょっぴり切ないものに思えてくるんだ。
だから、この綺麗な瞬間を少しでも近くで感じたくて。
わたしはしゃがみ込んだまま、目の前の青い花びらに向かって、吸い寄せられるようにそっと手を伸ばした。
いま、この場所で、この瞬間にしか出会えない最高のきらめき。
今年の梅雨は、わたしにとって一生忘れられない、特別な季節になりそうです。
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