ハロウィンカフェ
客のいなくなった店内には、微かなジャズのBGMだけが流れている。
有紗が「そろそろ閉めようか」と考えたその時、扉の鈴が優しく鳴った。
「いらっしゃいませ──ラストオーダーですが、大丈夫ですか……あら、澪さん。こんばんは」
「有紗さん、こんばんは。遅くにごめんなさい。一杯だけいただける?」
「もちろん。今日は何にしましょう?」
澪はブレンドコーヒーを注文しながらカウンターに腰掛けると、ふとテーブルに置かれた小さなジャック・オー・ランタンに目を留めた。
「これ、昨日バーにあったのと同じ? 凝ってるわね」
「はい。香澄さんたちに頼んで、そのまま置かせてもらいました。遥さんの力作です」
「ふふ、あの子らしいわね。遊び心があるのに、手は抜かないもの」
お湯を注ぐ音が、静かな店内に柔らかく広がる。
コーヒーの香りが、空気をゆっくりと満たしていく。
「どうぞ。ブレンドのホットです」
澪は両手でカップを包み、ひと口、そっと味わった。
「……うん。落ち着くわね。ここに来ると、自然と呼吸が深くなる」
有紗は少し照れながら微笑んだ。
「週一の間借り営業ですけど、こういう時間があると嬉しいんです。本業があるから、無理せず続けられて」
「でも、それだけじゃ続かないわ。有紗さんの味と空気があるからよ。香澄さんと遥さん、安心して休めてるもの」
「それなら、嬉しいです。みんなが助かって、それで私も夢が叶ってるなら──本当に、win-winですね」
そう言って、有紗は小さな皿をそっと差し出した。
「ハロウィンの後なので、パンプキンケーキ。今日はサービスです。末永く、よろしくお願いしますね?」
澪は一拍置いて、柔らかく目元をほころばせた。
「……それを断る方が、野暮ね。いただきます」
「どうぞ召し上がれ。ハッピーハロウィン♪」
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ギリギリですが、公式企画のハロウィンに参加します。
去年はバーの三人を描写しましたが、今年はその時は居なかった二人のカフェ営業日を。
去年のバーはこちら↓
https://www.chichi-pui.com/posts/90dbbde3-a6bb-4042-bf91-fe4f0cd80d0b/
更に成熟した大人2人、いい雰囲気が出てれば良いのですが♪
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