最初からいなかった
師匠の背中が月明かりに揺れていた。
冒険中、師匠と二人きりで行動することは稀だ。
このときばかりは密かにデート気分を楽しむつもりだった。
なのに——どうしてだろう。
歩幅を合わせたつもりが、距離が少しずつ開いていく。
「師匠……? あれ、どうして……?」
息が白く滲む。胸の奥が、ざわざわと音を立てた。
肩に何かが触れた気がして、振り返る勇気が出ない。
冷たい指先が髪をすくい、耳元で誰かが囁いた。
声が震える。
月の光が歪み、影が笑った気がした。
遠くで、師匠が歩き続ける。
まるで最初から——私なんていなかったみたい。
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