嗤う屍術師 #4
おぞましい異形の姿を確認した直後、魔力を足に集中させ、転げるように飛び出した。
しかし、これは彼我の戦力差を冷静に察知したからではなく、生理的恐怖がこの場から逃げることを最優先させたのだ。
「アハハハハ、逃げ足は速いねぇ。精々あがいてみせてよ」
先ほど聞こえた女の声が後ろから聞こえてくる。その姿を確認する余裕もなく、少女はただひたすらに、エルフェアルの森へ向かって駆けた。
本能的に逃げる先を選んだ少女だが、その選択に一縷の希望があることに気づく。
森の方には、後詰としてトレントを3体連れてきていたのだ。
トレントなら、最悪適わないまでも、少しでも時間稼ぎができるかもしれない。
少女は意識をトレントと通わせようとしたが、トレントの波長を感じとれないことに気づく。
嫌な胸騒ぎを覚えつつ、トレントが待機していた場所にたどり着くと、そこには腐臭をあげ、かつてトレントだった樹の残骸と思しきものが転がっていた……。
一時抱いた希望が崩れ落ちる時、生を掴むために走り続けた彼女の足も、ついに止まってしまう。
心身共に限界が近づいていたのだ。
「あれー、もう追いかけっこはおしまい?じゃ、大人しくしてもらおうかしら」
女の声と共に指を鳴らす音が聞こえると、トレントの残骸から粘性の触手のようなものが伸び、身体を拘束されてしまう。
「いや、離して……。お願い、なんでもするから、命だけは助けて、ください……!」
「あれだけウチの民を殺しておいて、都合のいいことね。」
縋るように見上げた女性のその顔は、何故か嗤っていた。
「でも、いいわよ。どうせあの街の生き物にはみーんな死んでもらうつもりだったから。
あなたには、選択肢を上げる。」
手を差し出しながら、女性が言う。
「私と共に生きるか、今ここで死ぬか。」
身動きができない身体をくねらせながら、少女が必死に言葉を絞り出す。
「なんでも、なんでもしますから……、私に、生きるチャンスを下さい!」
「私みたいなやつに、なんでも、なんて言わない方がいいとは思うんだけどね。まあ、いいわ。契約成立よ。」
女性が手を伸ばすと、少女の身体を拘束していた触手は枯れ落ちた。
少女が女性の手を掴み、立ち上がると、女性は言った。
「自己紹介がまだだったわね。私はナターシャ・ブラックモア。『屍術師』と呼ばれているわ。よろしくね。」
女性は嗤いながらそういった。
(まあ、精々生きることを選んだことを後悔しないことね)
呪文
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