魔法検閲・屁8 屁の鳥編
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魔法検閲・屁8 屁の鳥編
「みんなの魔力を合わせるのよ! 思いを、屁を!」
乙女の叫びが、戦場に響いた。
姫様は氷を、姫騎士は剣を、令嬢は風を——
それぞれの力が渦を描き、ひとつの光となる。
天を焦がすほどの熱が立ちのぼり、
香と風と炎とが、ひとつに溶けた。
乙女は振り返らずに言った。
「行くわよ、勇者様。見てて……これが、私たちの屁!」
黄金の風が、天を貫いた。
その中心に、ひとつの影が生まれる。
炎を纏い、翼を広げる鳥——。
だがそれは、不死鳥ではなかった。
「……屁より生まれし鳥。屁死鳥(屁ニックス)!」
姫様が息を呑んだ。
空は裂け、香は燃え、
聖なる炎が天地を駆け抜ける。
屁の熱量が、神話を上書きしていた。
だが、仮面の魔女たちも黙ってはいなかった。
魔女の長が、香炉を地に叩きつける。
「ならば我らも呼ぼう。地獄の牛、『実のタウロス!』」
大地が鳴動し、
香の裂け目から黒い獣が這い出した。
巨体、角、そして——強烈なスメル。
「な、なんか臭くない!?」令嬢が鼻を押さえる。
「屁と香の混ざった……いえ、その奥底のもっと根源的な何か……これは地獄の息吹だわ!」姫様も鼻をつまむ。
「実は出してはいけない決まりでしょう?なんて非道な!」姫騎士は叫ぶ。
「実は出してはいないわ、まだね」仮面の魔女はほくそ笑む。
「ただし、出してしまえば……この世界は終わる」
笑みは静かな絶望を湛えていた。
「私が止める! 姉さんに実を出させるわけには行かない!」
乙女は立ち上がる。
「負けない。私の香は、愛の香!」
屁死鳥が羽ばたいた。
黄金の炎が天を焦がし、
実のタウロスの黒煙を飲み込んでゆく。
「見て、姉さん……香が、溶けていく!」
乙女の頬に涙が伝う。
屁の鳥の香に巻かれながら、仮面の魔女が嗚咽した。
「……もう、香らなくていいのね。」
その仮面がひとつ、またひとつと砕け落ちる。
すべてを包み込む黄金の光。
戦場は静寂に満たされた。
——やったよ、勇者様。
乙女は涙ぐむ。
勇者は、これ以上ないほど穏やかな顔で立っていた。
「ああ、やったね……」
……えっ、勇者様?
乙女が覗き込むと、
勇者は静かに己の杖をまろび出していた。ふにゃふにゃとしたソレは、もう先ほどのように前かがみになる必要を無くしていた。
「……け、賢者様!」
賢者モードである。
「戦うより、悟ったんだ。
世界平和には……もう争いより香りが必要だ。」
勇者は、ナニをしていたのだろうか? 戦いのさなかにクラスチェンジしていた。
——勇者から、賢者へ。
世界は平和を取り戻した。
香りも、愛も、すべてが調和していた。
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エピローグ
城の中庭。
姫騎士「乙女、あんた勇者様に対してちょっと馴れ馴れしくない?」
乙女「ふふん、実はあたし、もう乙女じゃないのよ!」
姫騎士「あっ、やっぱり! この浮気者〜!」
姫様「ちょ、ちょっと!? 何の話してるの!?」
令嬢「ふたりとも……お静かに。風に乗って、また何か香ってきたわ。」
乙女(元)「……あら、これは恋の香り。」
ナレーション:
勇者の戦いは、まだまだ続く。
──終わり
終章
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呪文
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