魔法検閲・屁7 決戦編
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魔法検閲・屁7 聖戦
──香る者と香らざる者の最終決戦──
聖堂が砕けた。
祈りの塔は崩れ、ステンドグラスが涙のように散る。
光と香がねじれ、天井の裂け目から赤い月がのぞいていた。
「……来るわ」
乙女が静かに言った。
その指先が震える。あの香りを、知っている。
黒煙の奥から現れたのは、仮面の魔女たち。
先頭の女が低く笑う。
「光に酔う女たちよ。
おまえたちは香に惑わされることを知らぬ。」
姫騎士が剣を抜く。
その刃に、月の光が宿る。
「正義の名のもとに——!」
だが叫びはかき消された。
仮面の魔女の一人が手をかざすと、地面が割れ、
銀狼の影が疾走する。
「速いっ!」
令嬢が風を操り、空気の盾を張る。
「姫様、いまです!」
氷の結晶が宙に舞う。
姫様がその中央で祈るように息を吐いた。
「──凍てつけ、聖なる息吹!」
聖堂一面に冷気が走り、
魔女たちの黒衣を凍らせる。
だが、その奥からさらに濃い香煙が吹き上がった。
「無駄よ。香は、凍らない。」
仮面の魔女の長が、静かに香炉を掲げる。
その煙が、乙女の心臓を直撃した。
「……あれは、姉さん。」
乙女の声が震える。
「香を嗅がされて、操られてる……!」
令嬢が唇を噛んだ。
「姉妹……だったのね。」
戦場を包む香は、もはや嗅覚だけのものではなかった。
魂を侵す幻香——愛も誓いも、すべて曖昧に溶かしていく。
激しい魔法の応酬に、衣は風に散った。
布が舞い、光を受けて儚く消える。
その姿はまるで、戦場に咲く白い花の群れ。
姫騎士が剣を突き立て、叫ぶ。
「このままでは……乙女が!」
「近づけない!」
姫様の氷が砕け、
令嬢の風も裂けた。
乙女は一歩前へ出た。
その顔に決意が宿る。
「……あの香を打ち消すには、同じく香を立てるしかない。
でも、あの強さでは……普通の香では届かない。」
令嬢が目を見開く。
「まさか……あれを使う気なの?」
乙女は頷いた。
「そう。あの伝説の──」
姫様が震える声で制する。
「待って、それは禁呪よ!」
だが乙女は微笑んだ。
「禁じられたものほど、効くのよ。」
彼女は深く息を吸い込む。
空気が震え、聖堂の残響が静まりかえる。
仮面の魔女たちが一斉に身構えた。
「……まさか。屁の……鳥を……?」
乙女の瞳が光り、
黄金の風が渦を巻いた。
聖女の香とぶつかり合う音が響く。
空がひび割れ、赤い月が青白く染まる。
風が光り、香が歌う。
勇者陣営、そして魔女陣営。
誰もが見上げるその中心に——
黄金の羽が、一枚。
乙女が呟いた。
「……飛べ、屁の鳥。」
光が爆ぜた。
香が空を焦がす。
そして、すべてが止まった。
「乙女(元)……頑張れ!」勇者は乙女の魔法の成就を、固唾を飲んで見守っていた。前かがみで。
続く
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外伝 動物と屁
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