ファルゼン、舞う
クラウデンブルク家はその名の通り、クラウデンブルクを代々治めてきた領主の家系である。
エミリアはその中でも傍流の家柄であり、若くして魔力操作と魔導工学に関する知識に秀でていたことから、人型機動兵器、鋼鉄の騎士ことスティールナイトの開発およびテストパイロットを務めていた。
軍上層部からも期待は大きく、膨大な資金援助のおかげもあり、カタログスペックでは既存の兵器を大きく上回る性能を実現することができたが、肝心の稼働時間が解決できず、戦争が始まってから未だに実践投入が叶わずにいた。
しかし、先日情報部からもたらされた新たな技術、マナコンバーターという動力炉のおかげで、出力の安定化に成功。
テスト運用中に、クラウデンブルクの情報がもたらされ、エミリアは上官の静止を振り切って今に至る。
突如コクピット内に高密度の魔力反応を検知したアラートが鳴り響く。
エミリアは、すかさず肩部スラスターを最大出力で吹かし、回転するようにして回避運動を取る。
その後、先ほどまでファルゼンが取っていた進路を、光の奔流が通り過ぎる。
スラスタ―を調節し、射線の方角に機体を向けると、そこには紫色の竜の姿があった。
続いて、竜の顎に高密度の魔力が収束されていく。
「チィッ!これが最近噂の魔物の活性化ってやつなの!?」
竜の顎から炎のブレスが吐き出される寸前、右腕部に装着されたマナソードを取り出し、柄から魔力の刃を出力すると同時に、竜の下顎を狙い投げつける。
高出力の魔力の刃が竜の顎を貫き、縫い留める。
収束していたブレスの魔力が行き場を失い、竜の口内で爆発する。
しかし、竜の戦意はまだ失っていなかった。
その眼でしかと敵機をとらえ、死の光を照射する。
エミリアは、ファルゼンの両肩のスラスターを最大出力で吹かし、急上昇して光をよける。
その殺人的な加速は、魔力による防護壁を超過し、エミリアの身体に急激な負荷として襲い掛かる。
「ぐぅぅ!クソッ!いい加減、くたばれってのよ!」
スラスターの方向を転換し、竜の上方から速度を殺さずにそのまま交差する。
交差の瞬間、左腕のマナソードを取り出し、魔力の刃を出力しながらすれ違う。
緑色に輝く刃は、強靭な竜の肉体をたやすく切り裂いていく。
頭部から胴体を一刀両断された竜は、ようやくその生命活動を停止し、巨体を地面に横たえた。
竜の亡骸から右腕のマナソードを回収し、再度進路をクラウデンブルクに取るエミリア。
「一体何がどうなってるのよ。いくらなんでも、魔物の数が多すぎる。それに、竜種まで狂暴化しているなんて……」
既に、エミリアが単独行動を取ってから遭遇した魔物はこれが3体目だった。
機体の損傷は軽微なものの、操縦者への負荷が大きい機体での連続戦闘は、着実にエミリアの体力を削り取っていく。
だが、クラウデンブルクまではあと少しのところまで来ていた。
ピピっという音がコクピット内で響く。
目標地点として定めていたクラウデンブルクに到着した音だ。
しかし、エミリアにはその光景が信じられなかった。
街を覆うように取り囲んでいた防壁は崩れ、美しかった街並みも、原型を留めているものが少なく、大地は割れ、隆起した岩に突き崩されている建造物もあった。
そして、街には生者の気配はなく、そこには亡者が蠢いていた。
to be continued…
魔皇軍:紫竜 | ぶらいかむ。
https://www.chichi-pui.com/posts/24f3fc8c-0f93-474a-a989-f05578214680/
作中に登場する紫竜はぶらいかむ。さんの作品を参考にさせていただきました。
素敵な作品をありがとうございます!
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