『屍術師』の決意
そこには、赤色の鋼鉄の巨人が亡者を蹴散らす姿があった。
そして、視界を利用していた亡者もまた、巨人が手にする巨大な銃のようなものから放たれた、緑色の魔力の塊によって、跡形もなく消し飛んだ。
「うーん、これはちょっとまずいわね……」
私がそう独り言ちると、同じように亡者の視界から巨人を見たと思われるエデルが、驚きの声を上げる。
「うそ……。あの巨人、もしかしてあの悪魔と同じ動力源を使っている……?」
エデルの戸惑いの声を聞き、私は内心で一人納得する。
そうか、私が蒔いた種は、こういう形で実ったのか……。
もう少し、彼女とこの肉体で時間を共にできるかと思ったが、どうやらタイムリミットのようだ。
私は、エデルの両肩に手をかけ、正面から彼女の顔を捉える。
「エデル、よく聞いてちょうだい。アレを相手にするのは今の戦力だと厳しいわ。だから、あなたはこの場所に向かってちょうだい。」
私はそう言いながら、彼女の手に、ある場所を示した地図を握らせる。
そこは、クラウデンブルクから大きく西に向かった先にある山奥を示している。
「そんな、姉さん一人でアレと戦うっていうの!?」
「ああ、そうさ。なーに、時間を稼ぐだけならいくらでも手はあるさね。エデルは、その場所に向かって、あるものを取ってきてほしい。」
「……もう、これでお別れ、になんてならないよね?」
不安な、泣きそうな表情を浮かべながら、エデルが問いかける。
まーた、そうやってすぐ泣くんだから。
私は彼女の身体を抱きしめ、頭を撫でてやりながら耳元で囁く。
「もちろんさ。私は、『屍術師』ナターシャ・ブラックモアなんだよ。そうそう遅れを取りはしないさね。」
(本当のことを伝えてやらなくていいのかい?)
私の中の"ナニか"が、嗤いながら言う。
はん。私が素直に話しちまったら、エデルは絶対に着いてきちゃうでしょ。それでエルデが死んじゃったら、すべてはご破算。今までの苦労が水の泡よ。お前だって、そうなったら困るでしょうが。
(まあ、好きにするといいさ。タイムリミットは近いんだしな。精々、悔いのないように足掻いてくれたまえ。)
そういいながら、クソ忌々しい嗤い声は去っていった。
「姉さん、大丈夫?やっぱり私も一緒に戦った方が……」
気が付くと、エデルが心配そうな顔でこちらを見上げていた。
私は慌てて、いつもの嗤いを取り繕って言う。
「ああ、問題ないさね。さ、エデルはさっさと行きな。」
そう言って、エデルの肩を叩いて送り出す。
「わかった……。気を付けてね、姉さん……。」
エデルの不安気な顔は晴れなかったが、それでも自分の役割のために、走り去っていった。
さーて、『屍術師』最期の戦いを、グランゼンの新型に見せてやるとしますか。
獣人のゾンビと人型のゾンビをそれぞれ10体ほど集めて、負のマナを送り込む。
ゾンビ達の肉が溶け、混じり合いながら、それぞれ巨体を作り上げていく。
それは、生命を冒涜するかのような、交配の儀式。
ふむ、こんなものかな。
そこには、ぎょろりと大きな目玉で獲物を探す、影のように漆黒の身体を持つ狼と、苦悶の叫びを上げながら、触手を振り回す巨大なゾンビの姿があった。
観測手として忍ばせていた亡者の視界を頼りに、座標を割り出し、巨大なゾンビを転移方陣で送り込む。
そして、影の狼を私の影の中に潜ませて、私は赤い巨人のいる場所へと駆けていった。
to be continued…
呪文
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