温かな鼓動
後藤ひとりは凍える指先をさすりながら、人気のない岩場を彷徨っていた。あまりの寒さに意識が遠のき、もうこれまでの人生の走馬灯がフルカラーで見えてきそうになったその時、目の前に湯気を立てる不思議な水溜まりが広がっているではないか。
「えっ、うそ、ここだけあったかい……?」
恐る恐る手足の先を浸すと、芯まで凍りついた身体がじわりと解けていくのを感じた。過酷な場所で見つけた、この奇跡のような場所。
「はわわ……、すごい。なんだか、魂が浄化されていく気がする……。これぞまさに、生存戦略における最高の環境……!」
だが、すぐに現実的な不安が彼女を襲う。
「でも、もし誰かに見つかったら? 今のこの姿、バンドのメンバーに見られたら、明日からギターを弾く顔がなくなっちゃう!」
一人で顔を真っ赤にして、両手で頬を覆う。周囲をキョロキョロと見回すが、鳥の鳴き声さえ聞こえない。
「誰もいない……。ということは、ここは私だけの秘密の場所。よし、今のうちにこの温かさを独り占めして、細胞レベルで回復するんだ……」
冷え切った日常を忘れ、温かい空気に包まれて肌に心地よい熱が染み渡る。
「あぁ、もうちょっとだけ……あと五分だけ、こうして地球の温かさに甘えてもいいよね……?」
誰にも邪魔されない荒野で、ピンク色の髪を湯気に揺らしながら、彼女は安堵の息を漏らした。もしここで誰かに遭遇したら、その時は……その時は、恥ずかしさで溶けて消えてしまおう、そう決心した。
呪文
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