📘 絵本|てっぺんで いっしょに
ひとりで登る 山のてっぺん――
そこから見える あの景色を、
いつか かめさんと いっしょに見たい。
ぴょんぴょんと 軽やかに登る 自分にくらべて、
かめさんは のんびり のっそり歩きます。
でも、それでも……いっしょに登れたら、きっと 素敵だと思ったのです。
ある日、うさぎは そっと声をかけました。
「ねえ、かめさん。
今度 いっしょに 山のてっぺんまで 行ってみない?」
かめさんは びっくりして、目をまるくしました。
この山のてっぺんには、まだ一度も 行ったことがありません。
うさぎは 足が速くて、
この山にも 何度も登っていることを、かめさんは知っていました。
だから ほんの少し、不安になりました。
でも、うさぎは にっこり笑って言いました。
「ゆっくりで いいんだよ。 一緒に 行こう」
その言葉が、
かめさんの中に そっと あかりを灯しました。
(……うん。 うさぎさんとなら、登ってみたいな)
ふたりは、「あしたの朝に行こうね」と 約束をして、わかれました。
そして 次の日の朝。
ふたりは、山のふもとに 並んで立ちました。
少しずつ 少しずつ、
ふたりは 足なみをそろえて 登っていきます。
急な坂道では、
うさぎが かめの甲羅を うしろから そっと 押しました。
「あと少しだよ」って 声をかけながら。
うさぎ一人だったら、
きっと もう てっぺんに 着いていたでしょう。
でも うさぎは 幸せでした。
(今日は かめさんと 一緒に あの てっぺんの景色を 見たいんだ)
――そんな気持ちが、うさぎの中で ゆっくりと ふくらんでいました。
やっと 山のてっぺんに 着いたとき、
かめさんは 大きく 目を見開きました。
「すごい……こんなに きれいなんて……!」
その よろこぶ横顔を見て、
うさぎの胸も ぽかぽか あたたかくなりました。
甲羅を 押したり、
足なみを 合わせたり、
いつもより がんばった うさぎは、
少し 疲れてしまいました。
ふぅっと 息をつくと、
かめさんの甲羅にもたれて、すやすや 眠ってしまいました。
かめさんは そっと うさぎを見て、
にこりと 幸せそうに 笑いました。
うさぎも、幸せそうに 眠っていました。
それは、
うさぎだけの 宝物だった景色が――
この日、ふたりの 宝物になったからです。
呪文
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