ため息の輪郭
起源は2004年発売のゲーム『SHUFFLE!』に登場するキャラクター、麻弓=タイムの「小さい胸は貴重なのよっ、ステータスなのよっ!?」という台詞にさかのぼる。これが2007年のアニメ『らき☆すた』で泉こなたによって引用・改変され、ネットを中心に拡散。SNSでは今も日常的に使われている。
この言葉が広く共感を呼ぶ背景には、社会心理学の「社会同一性理論」がある。人は「集団の一員」であることに価値を見出し、マイノリティ属性でも誇りに変換できる。加えて、自己肯定感を高める「セルフ・アファーマティブ」な発想も指摘される。大きな胸が美の基準とされがちな中、「小さい胸」をあえてポジティブに捉え直す言語ゲームは、自己や仲間を勇気づける装置となっている。
また、このフレーズがネット上で繰り返し使われるのは、ミーム文化の特徴だ。SNSや同人誌のコミュニティで定型文として流通し、多様な個性を肯定する共感の輪が広がっている。
「貧乳はステータス」という言葉が広がる一方で、こうしたフレーズを安易に使うことの問題点も指摘される。
まず、身体的特徴をネタとして消費することは、本人の意思や自尊心を無視して無自覚な差別や傷つけを生む恐れがある。特に、冗談やネットスラングが広がる中で、「自己肯定」のつもりが他者を揶揄したり、比較する材料として用いられるリスクがある。
また、女性の体型や外見を過度に注目し、評価の対象とする風潮そのものがジェンダー平等や多様性の尊重に逆行する懸念も根強い。社会的な文脈や相手の受け止め方に十分配慮しないまま使われることで、傷ついたり、疎外感を抱く人が出る可能性は否定できない。
ミーム化が進む現代こそ、喧騒から一歩引いて、無意識の偏見や「笑い」の裏を考える視点が問われている。(ネットワーク調査部・朝田倉 純一)
呪文
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