ニドヴァル大陸の歴史②
ニドヴァル大陸解説シリーズ、一応これで一区切り。前回の以外にもタグの【#ニドヴァル大陸解説】で色々見れますので、お好きな方はどうぞ。
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人間族がニドヴァル大陸に移住し、繁栄してからしばらく経ち……統一歴1700年代前半のこと。
当時、魔法技術の拡散はエルヴェンタリア皇国によって禁じられており、同国の事実上独占状態であったが、人間族はそのエルヴェンタリアの優れた魔法技術を得ようと奔走していた。
そのため、アステリア連邦は極秘裏に魔法技術を入手する作戦……『銀影計画』を発動。文化研究を隠れ蓑として、スパイをエルヴェンタリアに潜入。そして魔術学院の教授のうちの一人を懐柔し、数年を掛けて各種魔法技術についての情報を段階的に入手していった。
これらの情報を活用し、アステリア連邦内でも魔法使いの育成が開始された……しかしその頃、エルヴェンタリア皇国では遂に魔法技術漏洩が発覚し、同国はアステリアを激しく非難。
協力者であった教授の引き渡しと漏洩した文書の返却、そして莫大な賠償金を要求したが、アステリア連邦はその要求を拒否。
交渉は決裂し、遂には武力事態にまで発展。大陸の趨勢を変える大戦役『簒奪戦争』が幕を開けることとなった。
当初、エルヴェンタリア側はアステリアの戦力を過小評価していた上にアステリア側も魔法の解析に伴って対抗手段を適切に講じたため、戦争は泥沼化していった。
初動を誤り、余裕を無くしたエルヴェンタリアは後に禁忌とされる魔法『スピリット・ボム』を開発、使用することとなる。(詳細: https://www.chichi-pui.com/posts/07c3b9c8-ed9d-4895-ace5-c6f825be35c6/ )
最終的には双方がこの魔法を濫用することとなり……結果的に戦争は痛み分けという形で終戦となった。
しかし、『スピリット・ボム』による環境マナへの影響は極めて大きく、わずか数年で大陸内の環境が変化していた。
特に顕著だったのが、各地での生物に対する異変。特に『古代戦争』時に各地に散らばったモンスターの数の増加や、元々温厚だった生物でも凶暴なモンスターに変化する事案が相次いだ。
それに伴って各地で被害が続発。また、戦後の治安悪化により盗賊団や海賊を含む非合法組織が跋扈。エルヴェンタリア・アステリア双方が疲弊した状態では、官憲や正規兵も動員しにくかったことが事態の悪化を加速させた。
また、環境マナの減少により既存の魔法の効果が大きく減少。特に治癒魔法は断絶寸前となった他、使用が困難になる魔法が多く発生した。
これは魔法技術に依存していたエルヴェンタリア皇国にとっては大きな痛手となり、同国のさらなる国力低下を招いた。
とはいえ、この混乱に乗じてエルヴェンタリアの属国扱いだったドゥーネイルが独立。『ドゥーネイル共和国』として国際社会に復帰することとなった。1000年もの抑圧に苦しんでいたドワーフ達は歓喜の声を上げたと言われている。
そんな混沌と自由が入り混じった世界を冒険した人間族の男がいた。彼は戦後のニドヴァル大陸各地をくまなく巡り、そこで見聞きしたことを一冊の本にまとめた。
その内容は詳細な文化的な解説を含みつつもどこかユーモラスで読みやすいものであり、たちまち大陸全土でベストセラーとなった。
こうしてその冒険家の男は大きな富を手に入れたのだったが、彼はその金をある事業のために投じることとなる。
それは、彼が旅をしていた頃に各地でモンスター退治や治安維持、散逸した遺物を回収していた有志による自警団活動への支援だった。
男はそれらの人々の互助・支援を目的とした財団『冒険者財団』を設立。大陸の各地に支部を作り、ネットワーク化することで各国当局や軍では解決できない事件・事案を補うための組織を作り上げた。
登録された『冒険者』に対しての依頼の斡旋、寝食の援助、各地からの依頼の取りまとめ等、その業務は多岐に渡ったが、ある意味では戦後初めての国際協力プロジェクトであった。
そして、財団創立から数十年が経過し……統一歴1820年頃。『冒険者』はニドヴァル大陸特有の、特異かつ魅力的な職業として認知されるに至った。
ベルディアでは農村を荒らすモンスターを退治し、ドゥーネイルでは落盤により遭難した鉱夫を救助し、エルヴェンタリアでは行方不明となっていたマジックアイテムの捜索を行い、アステリアでは歓楽街に潜む非合法組織と対峙し、サウクレドでは海底に沈んだ遺跡の調査を行った。
勿論、これらの冒険は一例ではあるが……少なくとも、危険と引き換えに名誉や報酬、あるいは消えかけていた真実を求めるために、今日も財団には登録希望者がやってくる。
中には変わり者や利益第一な人物もいるが……とりあえず、『冒険者』達の活躍は様々な形で後世に語り継がれることになるのである。
この世界には魔王も、勇者もいない。大きな戦乱を乗り越え、魔法が消える間際の最後の輝きを放った時代。蒸気機関やマスケット銃と、剣や魔法がまだ並び立っており、大陸中を股にかけ冒険者達が活躍していた時代。
後の人々はこの時代を『黄昏の時代』と呼ぶこととなる……
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