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まるで「まだ途中ですよ」と微笑む駅名標みたいだな、と思った。
前に、十万のあとの五千には独特の“風”が吹くらしい、
そんな話をした。
あの風は一回きりの気まぐれじゃなくて、
どうやら律儀に季節ごとに戻ってくる習性があったらしい。
今回も、気がつけば
袖をそっと引っ張るような、小さな風が近くにいた。
いつものように名前は名乗らないけれど、
「見ていたよ」という気配だけは残していく。
そういうところが、この場所の好きなところだ。
十一万のとき、
僕は“しおり”の話をした。
ページのあいだから落ちてきた金色のしおりには「つづき」と書かれていて、
そこに小さく「またね」が添えられていた――そんな話だ。
今回、そのしおりをそっと拾い上げると、
もうひとつ文字が増えていた。
今度は、淡い鉛筆の線でこう書いてある。
「まだ終わらないよ」
まるで、未来の誰かから届いたメモのようで、
僕は思わず笑ってしまった。
たぶん、ここまで来たことへの祝福と、
この先へ行くための合図を、
同時に渡してくれているのだろう。
数字というのは不思議だ。
たくさん並べると“量”に見えるのに、
一つずつ見つめると“光”に変わる。
名前も声も知らない誰かが
小さな灯りをそっと置いていってくれた結果、
いつのまにか足もとが明るくなっている。
それが十一万五千の正体だ。
僕はもともと、
大きな目的地に向かって走るタイプじゃない。
道の途中で落としたものを拾い集めながら、
気の向くほうへ歩いてきただけだ。
それでも、どこかで拾った光が
こうして形になるのなら、
歩いてきた時間はきっと間違っていなかった。
さて、ここから“次の五千”が始まるらしい。
十二万という数字は、
まだ少し遠くのページにある。
ページをめくる音も聞こえない。
ただ、しおりに書かれた「まだ終わらないよ」が
妙に説得力を持っていて、
どうやら僕はその続きを読みに行くつもりらしい。
もしまた風が吹いたら、
その合図だと思ってくれていい。
今はただ、静かでやわらかい声で言わせてね。
ありがとう。
手のひらにそっと乗せられるくらいの、
でも確かに届く重さで。
呪文
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