爛漫たる花紅 烏狼ツバキ
そう言って得意げに笑って見せるのは、一族の若者世代の中で末の娘、ツバキであった。
彼女の頭上では、先程までは固く閉ざした蕾であった赤い椿が、柔らかに綻んでいた。
烏狼(うろう)の一族には風を操る術と、植物と意思疎通する二つの能力がある。
この植物との意思疎通とは、即ち植物に宿る意思や感情などと言ったものを読み取り、その場で起きた出来事を知ったり、情報を読み取る、いわば第三の目や耳といった役割として使うものである。
しかし極稀に、「植物を操る能力」に昇華させるものが現れる。
次期族長と噂されるヤナギもまた、その力に目覚めた一人であった。
しかしこの能力、極稀と述べた通り、一握りの限られた才のある者が、およそ齢十五頃になって初めて目覚めるものである。
ヤナギが目覚めたのも、丁度十五を迎えた日、花が祝福するかのように咲き乱れたことがきっかけで判明したのだ。
「……凄いのぅ、ツバキは」
そんな彼の目の前で花を咲かせてみたのは、今年で八つになったばかりの幼子だ。
ヤナギがその小さな頭に手を置いて優しく撫でると、得意げな笑みはふにゃりと解けて力の抜けたものになる。
「もしかすると、儂じゃなくツバキが長になるかもしれんのぅ」
冗談めかした笑顔で、ヤナギはそう言う。
事実、術に関して天才的な成長を見せるツバキに対して、次期族長はヤナギではなくツバキの方が相応しいのでは、と零す者は一人や二人ではなかった。
しかし、ヤナギの言葉を聞いたツバキは、不服そうに眉を顰めてこう言い返した。
「いやじゃ! わらわは絶対兄上よりは偉くはならないのじゃ!」
ぷくりと頬を膨らませる彼女に対して、ヤナギが「なぜじゃ?」と尋ねると、彼女はどこか照れくさそうに目を逸らし、それから少し口籠った後にこう言った。
「だって、わらわが兄上より偉くなったら、こうして撫でてもらえなくなるのじゃ……」
誰よりも目覚ましい成長を続ける彼女は、しかし誰よりも幼く、年相応に甘えたがりでもある。
そんな彼女に、ヤナギは困ったような笑みを浮かべて、もう一度くしゃりと頭を撫でるのであった。
***
「烏狼一族」について→ https://www.chichi-pui.com/posts/d070e308-b04e-43c9-95d2-c65e2430290e/
「ヤナギ」について→ https://www.chichi-pui.com/posts/65b0785e-1d91-4504-880a-f75fb1dd1268/
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