Halloween事変 前編
今年もこの日がやって来てしまった……
昨年も、ちちぷいにて行われた、『ハロウィン』なるイベントに参加して、大変だったのは懐かしいようで、ついこの前あったことのようでもある。
しかしながら……気づけばな?
『ちちぷい、ハロウィン祭り会場へようこそ! トリック! オア!』
「「「「トリートォォォ! ご褒美くれなきゃいたずらするゾ!」」」」
既に熱気は最高潮? あと、今日平日だよな?
なんで、僕たちここにいるの? んで……
「なんなんだ、僕のこの衣装は?」
思わず独り言ちた……黒いローブに……これは? 切れない刃の刀か?
お祭り会場に、まぁ、切れ物はご法度だよな……ところで、皆はどこだ?
まぁ、ちちぷいなら、脅威はあるまい……合流して速やかに福岡国へ帰ろう。
* * * *
甘ったるいお菓子の匂いが漂う会場だが、不思議と気分は悪くない。
むしろ、心地いい香りだ……相変わらずちちぷいは不思議な場所だ……
でも、これ……意図せず異世界に転送されてしまったという事だよな?
……怖くないか? これ……
「あ♪ ラーヴィ~♡ 気付いたのね♪」
「ミントか、君もここに? なら、福岡国のメンツも、呼ばれていそうだな?」
幼馴染のミント。それにしても、早速仮装しているな……
「ところで、その衣装は? というか、『気づいたのね』とは?」
「これね♪ 皆で着付けしたのよ~♪ どう? あと、気づいたのねってそのままよ。アナタこっちに来た時、まだ寝てたもの」
「寝ていた……ほうほうほう、つまり、寝ている間に僕はこんな衣装を?」
そこまで聞くと、ミントは満面の笑みだ……はぁ。
ハロウィンは忙しいからだと言って、前倒しで昨日は5人を相手したから……
正直へとへとだったんだよな……
「ねぇ♡ 私のこの『ゾンビナース』に合ってる?」
「見事だな? 肌の色はともあれ、ちゃんと衣装とに合ってるし……可愛い」
僕の感想に喜ぶミント。抱き着いてスリスリマーキングまでしてくれる。
「他の皆はどうしてる?」
さて、他のメンバーも探さねば……するとミントは――
「椿咲と葵は広場に♪ 私も今日はのんびりぶらぶらするつもりよ♪」
「なるほど、まぁちちぷいだし、大丈夫か……他の皆の様子を見て来るよ」
僕はミントと別れて、とりあえず葵と椿咲のいる広場へと向かった。
* * * *
広場に向かうと、これまたにぎやかだな。
ストリートダンスに、パフォーマンス等、色々自由に楽しむ人で溢れている。
この人だかりで2人を探すのは困難だな……
いや、なにやってんだ? あの2人! ステージに立って何を?
「そいでねぇ? 聞いてよ皆。ウチと椿咲さぁ? あんま出番がなくてねぇ?」
「そうなのですわよ~、葵はですね? ちゃぁんと、主観の出番がありましてですね?」
「つ、椿咲? モロなメタ発言はやばばば💦」
「よろしいんですのよ……本当に……うう」(涙
寸劇している……だと?
だが、何故か同情する観客も多く、割と足を止めている人も多い……
すると、椿咲が、僕に気づいたのか、こちらに鋭い視線を向けると――
「そこなラーヴィ様。こちらに来てくださいませんか?」
「あ! にぃに! こっち来て! 早く! じゃないといたずらしちゃうゾ?」
拒否権はないのか……しかたない。
僕はそのまま跳躍して、一気に2人が立つステージに降り立った。
アトラクションか何かと思われたのか、観客からどよめきが沸いた。
「にぃに~~♡ なんでか知らんけど、すっごい久しぶりに会えた~♡」
「本当ですわ♡ んもぉ、その香しいお体、暫くほしいですわ♡」
人目を気にせず、2人は僕に抱き着く……観客から、なぜか笑いが起きる。
「はいはい、2人とも。落ち着け。こうして一緒に居られるし、昨日も居ただろ?」
「昨日は激しかったね~♪ にぃにが憎悪モードで♪」
「わたくしたち5人ノックアウトでしたもの~♡ はふ」
「大衆の前で言う話題じゃないだろうが!」
僕のつっこみの後、何故か笑いが起きる……笑いの沸点低くないか?
「それよかさ? にぃに?」
「ラーヴィさま♡」
「「ウチたちどう? この衣装♡」」
葵は魔女の衣装。椿咲はヴァンプの衣装か……ここは素直に言うべきだろう。
「2人共、すごく似合ってるぞ。葵は見たままの、可愛い魔女だし、椿咲は魅了してくるヴァンプレディだね。2人共とても可愛いぞ」
僕の感想に、ミントと同様に、2人とも大満足なのか、抱きしめた腕に力を込めてきた。
「ん~~~♡ にぃに、大好き」
「愛していますわぁ~♡」
「またこの展開か……よしよし、落ち着け。僕は皆を探してるんだ。ミントは先ほど会えたけど他のメンバーは?」
僕は2人の頭を撫でながら聞いてみると――
「そういや、まほちゃんは……」
「……言わずともわかりますわよね? ラーヴィ様?」
食べ物のある場所かぁ……急いでいかなきゃ、他の客の食事が大変だ。
「ありがとう、食べ物のある場所を探そう。2人とも、楽しんでね」
僕は2人と別れて、食事をむさぼっているだろう幻刃の元へと向かった。
背後から「ろくでなしタラシの5股ヤロー!」「皆幸せにしろよぉ!」
と、聞こえた……
* * * *
おそらく、幻刃が訪れるとすれば……この、レストラン街と屋台街だろうな。
たぶん、トンデモ量を食べてるだろうから……
『すっすげぇ! なんだアノお嬢ちゃん! なんて喰いっぷりなんだ!』
ほらな、すぐわかった……
声のする方へ向かうと……うん、知ってた。
幻刃が、大量の料理をむしゃむしゃと、ひたすら食べているではないか……
「ん~~~♡ このかぼちゃのグラタン! 滑らかなソースに玉ねぎがしっかり溶け合って、クリーミーなのに豊潤な香りも♡ パンも新小麦で作られたバゲットで、ソースに負けず、しかししっかりと共存した味と食感が絶妙♡ アルデンテのグラタンパンですぅ~♡ いくらでも食べれちゃう。こんがり焼けたとろ~り蕩けるチーズは、フレッシュモッツァレラを使用していて、塩味も控えめ……旨味だらけのパンプキングラタン! 20皿ご馳走様です♡」
グラタン20皿完食か……だけど、次にかぼちゃのスープを手にして、まるでジュースのように飲み干している。火傷しないのか? あれ……
「ん~~~~♡ スープも最高☆ 丁寧に裏ごしされて、なめらかさの中に、わざとキューブのカボチャも忍ばせて、食感も楽しめるスープだわ♪ クルトンもさっくさく♡ ……んみゅ? ラーヴィです?」
食レポの途中で、僕に気づいたか……そして、僕の方をまじまじと見つめながら――
「ヤマネさん、視覚頂戴な」
『ハイハイハイ~、すっかりウチこんな役柄やな~』
全盲の彼女は、九尾の大妖怪、ヤマネを憑依させることで、視覚を得ることができる。
白銀の美しい髪に紫色の瞳で僕を見つめた後――
「ぷ……ぷふううううう! ちょっとラーヴィ! 二つ名が『銀髪の死神』だからって! 滑稽な恰好! あはは♪」
「笑うなよ、何故か寝ている間に、皆が着せたんだろ?」
「あ、そういえば着せてたわね? ふふふ♪ でも、似合ってますよ? 旦那さま♡」
クスクスっと、上品な仕草で笑う幻刃。
それにしても、カボチャ頭をかぶってかぼちゃ料理を食らいつくす……
……まぁ、気にしないでおこう。
「それにしても、衣装可愛いな。美人な君をさらに引き立てているようだな」
「あら? 口説かれてます? ふふ♪ でも、他の皆にも言ってるのよね?」
「ああ、ミント、それに葵と椿咲まで会えたよ。後は月美だけか?」
ここまで4人と会えた。後のコスは月美だけだな。
「月美ちゃんだったら、瑠奈と一緒に主催者様のお屋敷に向かって行ってるわよ?」
「な! 瑠奈も来ているのか?」
「小説のヒロインですものねぇ? 私はまだまだお腹が空いてますから♪ ここで楽しみますね♪」
底なしに食うなぁ……僕は苦笑いしながらも、彼女と別れて、月美と……
「瑠奈も来ているのか……懐かしいな」
熊本の事件を解決したのは、去年の話だ。
そこからの、久しぶりの再会だな。
すこし胸が高鳴る……僕は幻刃から教えてもらった、主催者の屋敷へと向かって行った。
呪文
入力なし