A.T.フィールド崩壊、放課後の補完
蒼い少女は、いつも窓際にいた。白い肌に青を溶かしたような体。表情を持たない顔。人形のようだと、誰かが言った。けれど人形は、あんな目をしない。赤い瞳が、こちらを静かに捉えたまま離れない。そこに感情が宿っているのかどうか、確かめたくなった。確かめるには――触れるしかなかった。
最初に壊れたのは、距離。二人の間にあった見えない壁が、指先が触れた瞬間に硝子のように砕け散る。セーラー服のリボンがほどけ、シャツのボタンが外される。白い布地の下から現れた青い肌に、午後の光が斜めに差し込む。彼女は抵抗しなかった。拒絶も、受容も、その顔からは読み取れない。ただ、鎖骨を伝い落ちた汗の一筋だけが、この体が人形ではないことを証明していた。
膝が開かれる。そこにためらいはない。まるで命令に従うように、あるいは命令そのものを捨て去るように。白いパンティーの縁を指でずらすとき、初めて唇が動いた。声にはならなかった。けれど読み取れた。「――逃げないで」。
正面から。背後から。跨がるようにして。体位が変わるたびに、蒼い肌の上を走る影の形が変わる。汗の匂いと制服の布地が擦れる音。くぐもった喘ぎ。それらが幾重にも重なり、教室という箱の中で臨界まで濃縮されていく。心の壁が崩れるとき、体もまた、境界を失っていく。どこからが自分で、どこからが相手なのか。二つの体が溶け合い、補い合い、ひとつになろうとしている。
――これが、補完。
すべてが終わったあとの、あの静けさ。使途を果たした体が、シーツの上に投げ出されている。開いたままの膝を閉じる気力も残らず、青い肌の上を白い液体がゆっくりと伝い落ちていく。胸の上にも、髪の先にも。太腿の内側を辿り、制服のスカートの裾に染みを作る。体中に残された白い痕跡が、さっきまでの激しさを無言で語る。
枕に顔を埋めたまま、荒い呼吸が凪いでいく。もう一人の少女――赤い髪留めの、勝ち気な瞳を持つ少女なら、こんな顔はしなかっただろう。あの赤い少女は、自分から腰を落とし、自分の快楽を自分で掴み取る。誇り高く、激しく、まるで戦うように。泣くとしても、それを誰にも見せない。
蒼と赤。二人の少女は正反対で、けれどたった一つだけ同じものがあった。制服を纏い直したあとの、瞳の奥に残る火。リボンを結び、靴下を直し、スカートの裾を払って。何事もなかったかのように日常へ戻りながら、その目だけが、まだ戦場にいる。
私は何者でもない、と蒼い少女は言った。 私を何者かにしなさい、と赤い少女は言った。
答えは出ない。出ないまま、明日もこの教室で、五時限目のチャイムを待つのだろう。人類の補完などという大層なものではない。ただ、この体が求めるものを、この体に与えるだけの、放課後の小さな儀式。けれどその儀式のたびに、壁がひとつ壊れ、境界がひとつ消え、二つの体がほんの少しだけ、ひとつに近づいていく。
おめでとう、とは誰も言わない。ただチャイムが鳴り、教室に西日が差し込み、蒼い肌の上で埃が金色に舞っていた。
呪文
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