ただいま、わたし
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《ただいま、わたし》
マルとの別れから1時間後──
玄関を開けたら、そこにマルが居た。
マル
「……学校つかれた。今日はもういい――」
制服のスカートをふわっと揺らしながら、彼女は靴を脱ぐと、そのままベッドへ倒れ込む。
朝、あんなに気合いを入れて「行ってきます!」と言っていたのに、わずか1時間で帰宅してきたのだった。
マルは金髪のショートカットを、くしゃっとさせながら天井を見つめる。
マル
「はぁ……あんなこと言ったのに……私、ダメ人間なのかも――」
実は、通りすがり氏(弟)と別れたのは、喧嘩だった。
マル
「ちゃんと通うから。今度こそ、逃げないよ」
そう言って、彼に背を向けたのに、たった一時間で限界だった。
マル
「でもさ……疲れたものは疲れたし……ムリって思ったら、逃げてもよくない?」
彼女はそんなふうに自分に言い訳をしながら、クッションを抱きしめて目を閉じた。
そのとき──
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
玄関を開けると、そこには──
マル
「…………え!?」
マルは思わず、声をあげる。
通りすがり氏(弟)
「カフェラテとドーナツ。好きだったでしょ?」
マル
「なんで……」
通りすがり氏(弟)
「嘘つき。ちゃんと通うって言ったのに、1時間しか経ってない」
でも、彼の顔は笑っていた。
ちょっとだけ呆れたように、でも優しく。
通りすがり氏(弟)
「……ただいま」
マル
「……――おか、えり、なさい」
それは、少し不器用な和解。
そして、逃げたっていいけど、帰る場所があれば大丈夫──そんな二人の、ちいさな物語。
続く。
呪文
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