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俺はまだ目を閉じている。

息は静かで、体中の筋肉も緩んだまま。

部屋には、生徒たちの微かな動きと、練習着に擦れる音だけが響いていた。

だが、それは“起こさないように気をつけている”わけじゃない。

むしろ“起こす直前の静けさ”だった。

空気は甘い。

昨日の汗が乾ききらないまま混ざった香り。

掛け布団に残る石鹸、髪からふわりと立ち上るシャンプー。

そのすべてが、今朝の火照った肌の熱と混ざって、空間全体をややこもらせている。

先生の足元に近づいた蘭の膝が、布団の端にそっと沈む。肌の白さが畳の色と対照をなし、ちらりと見えるふくらはぎは、汗ばみつつも柔らかく、光を吸い込んでいた。

ひなたの指先が、掛け布団の端を少しつまむ。

ゆるくつかんだまま、何度か左右に動かす。その動きのたびに、布団の中の空気が揺れて、先生の肌に誰かの熱が間接的に届く。

生徒たちは声も出さず、ただこっちを見つめている。

けれど、その肩の角度、目線のそらし方――全部が“これから何かする”前の空気に変わっていた。

美月の髪が、風もないのに揺れる。誰かが動いた、そのほんのわずかな熱で毛先がふわりと上がる。

そして、それが隣の肌にふれて、かすかな震えが生まれる。

肌同士はまだ直接ふれていない。

だけど、もう距離はゼロに近い。

匂いもまた変化していた。

昨日と同じシャンプーでも、汗と混ざって違う香りに。

乾ききったタオルの甘さ、掛け布団に染み込んだ柔軟剤の余韻。

そして、布団の中のぬくもりに触れて、全体が“いたずらの直前の香り”に変わっていく。

笑い声はまだない。だけど、空気は笑っている。

この緊張感は、いつもの教室でのスタートラインのそれとは違う。

もっと小さくて、もっと柔らかい。

肌のぬくもりと匂いが織りなす、「これから触れる」前の空気。

俺はそれでもまだ寝たふりを続ける。

生徒たちには、ちょっとした許可のように感じられる。

空気全体が、「触れていいのかも」と囁いていた。

呪文

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