#4 リナ編
午後の撮影は、学校の庭園から始まった。広々とした芝生に、まるで漫画に出てきそうな「告白専用の大きな木」がそびえている。
「ここで、主人公の告白シーンを撮るよ」
リオは相変わらず淡々と説明した。
リナは手元のラブレターに目を落とす。封筒には赤いハートのシールが貼られていた。
――今どき手紙で告白なんて古すぎでしょ……。LINEスタンプで済ませる時代なのに。
告白シーンが終わると、次はカップルの日常を描いた場面。
手をつないで歩いたり、芝生に寝転んで空を見上げたり。春のような日差しと優しい風が絶妙な雰囲気を演出し、まるで青春ドラマのオープニングみたいだった。
撮影中、遠巻きに見ていた生徒たちがヒソヒソと盛り上がり始めた。
「話題になるから、あえて人払いしてないんだ」
と、リオはあっさり言う。
リナは口に出さなかったが、内心では大きくため息。
――絶対、私の公開処刑を楽しんでるでしょ……。
その後、場所を校内のカフェに移して、放課後デート風のシーンを撮影。
テーブルにはドリンクが一杯だけ。二人でそれぞれストローを差して飲む――という、いかにもなラブコメ構図。
顔が近づくたび、リナの耳はどんどん熱くなる。
「……恥ずかしすぎるってば……!」
さらに、図書室でも制服姿のまま静かなシーンをいくつか撮影。
本棚の前で本を読むリナ。壁にもたれたり、机に突っ伏してぼんやりしたり。
リオは遠隔操作でドローンのカメラを動かしつつ、「もっとリラックスして」「笑顔を自然に」などとアドバイスしてくる。
……問題は、そのアドバイスの最後がいつも「スカート、そんなに下げなくていいよ」なところ。
日差しが和らいできた頃、次は運動場へ。
リナは白の体操シャツと赤いブルマに着替え、トラック脇でストレッチ中。
「本当に汗かくまで走らなきゃダメ?」
「うん。俺は画面に映らないし、読者は男の体操服なんて見たくないでしょ」
「それ、ただサボりたいだけじゃ……」
文句を言いながらも、リナは仕方なくトラックを何周も走り、ゼェゼェ息を切らせた。
その間、心の中ではリオへの「請求リスト」がどんどん膨れ上がっていった。
続いてプール撮影。衣装は紺のスクール水着。
事前に二人で「露出の線引き」について真剣な話し合いもあった。
「自然な学生の水泳シーンを目指すから、わざとらしいセクシーさはいらない」
「……あんたが今朝、どれだけ恥ずかしいポーズさせたか覚えてる?」
「それとこれとは別」
結局、リナは水から上がるシーン、タオルで髪を拭くシーン、泳ぎ終わってポーズをとるシーンなどを一通りこなした。
清潔感とほどよい色気を両立した映像になった……はずだった。
だが――リオの演出はそれだけでは終わらなかった。
彼はなんと、「男主人公の妄想」という名目で、リナが水着のままシャワーを浴びるシーンまで撮ろうとしていたのだ。
「これ、大丈夫なの……?」
「大丈夫。AIで自然な仕上がりにするし、きれいに撮るから」
「……」
リナは不安な表情を浮かべながらも、契約にある“最終確認権”を信じて、ぐっと我慢した。
そして、クライマックスは恋愛コメディの定番、「更衣室のハプニングシーン」。
もちろん事前に打ち合わせ済み。とはいえ、いざ撮るとなるとやっぱりドキドキする。
着替えの最中、リナはカメラの動きを気にしながら、絶妙な「見せすぎない構図」を保つ。
――まるで「ヤバそうに見えて、ちゃんと計算されてる」ってやつ。
……この人、こういう“ギリギリ演出”、ほんと上手いな。
撮影が終わる頃には、リナは全身クタクタ。
走って、泳いで、恥ずかしいポーズまでたっぷり。心身ともに限界だった。
椅子に崩れ落ちるように座った彼女に、リオが声をかける。
「お疲れ様。今夜はご褒美にごちそうするよ。何が食べたい?」
リナは一瞬で元気を取り戻し、ドヤ顔で立ち上がる。
「よし、遠慮しないからね!財布の覚悟はできてる?」
……が、次の瞬間、ふと我に返る。
――って、これ……またデートに乗せられてない!?
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