彼ピと♡
陽菜はスカートのプリーツを整えながら、手元のノートにシャープペンを走らせていた。何気なく前屈みになったその動きにつられるように、誠の視線が彼女の横顔へと吸い寄せられる。
「ねぇ、ここ、どうやって解くの?」
ふいに陽菜が顔を近づけて囁く。シャツ越しに感じる熱と、甘いシャンプーの香りに、誠は思わず言葉を呑み込んだ。
「え、えっと……ここは、まずこの公式を使って――」
机の上で手が触れ合いそうになる。誠の説明を聞きながら、陽菜は軽く頷いた。明るい瞳は教科書の文字ではなく、すぐ隣にいる彼の横顔に向いている。
しばらくして、誠がノートに新しい数式を書きこんだ。
「――ほら、ここ。こうやって…」
「なるほど、すごいね、誠くん」
陽菜が無邪気に笑う。その一言に、誠は少し耳まで赤くしながらも、どこか誇らしげだ。
ふと、陽菜の手がペンの動きを止める。彼女はいたずらっぽく微笑みながら、ささやくように問いかけた。
「ねえ、私と一緒だと、勉強、集中できない?」
誠は苦笑しながらも、「ちょっとだけ…」と正直に答える。陽菜はそれに満足し、「それじゃ、がんばった分だけ、次は陽菜が質問に答えてあげる!」と宣言した。
窓の外には青い空と雲。机を並べて同じ問題に向き合うふたりの間には、教科書とプリントの束――そして聞こえそうで聞こえない、胸の高鳴りが静かに漂っていた。
たった数分前まで何気ない日常だった教室が、その瞬間だけ、ふたりだけしかいない特別な場所になる。陽菜の微笑みと、誠の誠実なまなざし。そのどちらもに満たされた、やさしい午後のひとときだった。
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