朝の特別チケット(百合要素強めです)
そのまましばらく、布団の中の世界にふたりきりで閉じ込められていた。
「……ねえ、アルトリア」
「はい」
「枕の下に……なんかある……」
「……見つかってしまいましたか」
彼女の頬が、すこしだけ赤くなった。わたしが手を伸ばして引き出したのは、小さく折りたたまれたメモだった。開いてみると、手書きの文字が、ほんの少し震えながら綴られている。
『おはようのキス券 一回 使用期限:今朝限定』
「……なぁにこれ」
「贈り物です。朝の、ふにゃふにゃした貴女を眺めていると、キスしたくなる衝動を我慢するのが大変で……だったら許可を得れば良いのでは、と思いまして」
「……アルトリア可愛いこと考えるんだねぇ……」
「……可愛く……はありません、効率的かつ、合意を得られる方法かと」
「……そうですか……」
わたしは彼女の襟元を掴んで、そっと引き寄せた。ふたりの唇が触れ合ったその瞬間、世界の温度が少しだけ上がった気がした。
「……使用済み、ね」
「……有効期限の延長を、申請してもいいですか?」
「ふふ……却下。でも、明日は明日で、また欲しいな。違う券で」
「承知しました」
ふたりきりの朝。仕事も日常も、すべての前にある、わたしたちだけの一日が、今日も始まる。
──ただ、起きるのはちょっと遅れちゃいそうだけど。
でもまあ、それも仕方ないか。
だって。
「だって、アルトリアが、ぜんっぜん離してくれないんだもん……」
「ふにゃふにゃな貴女が悪いのです」
「……うぅ、言い返せない……」
それでも幸せなこの朝に、何ひとつ文句なんてない。心の奥から、とろけるような甘さがこぼれていく──
呪文
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