【マタタビ】20.5.束の間の休息
【マタタビ】20.越夜隊の暗躍
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俺とシロ、グリレとグリルスは、ルースト005の最深部のサーバールームで食事を取り、一休みした後、地上へ向かって歩き出した。
しばらく進むと、地下通路の先に人だかりができていた。そこには、ルースト005の住人だけでなく、旅人や黄昏梟、それに越夜隊らしき者の姿も見える。
「何かあったのかな?」
シロが不思議そうに呟く。
「俺が話を聴くよ」
そう言って、グリルスは耳を澄ませる。耳に装着した“奇跡の残響”で人だかりの会話を盗み聞きしているようだ。しばらく、耳を傾けていたグリルスは、驚いた顔をして感嘆の声を上げた。
「おお、それはすごい!」
「何がすごいんだ?」
俺は、グリルスを見上げながら聞く。グリルスの話によると、どうやらこの先に“地の泉”と呼ばれる巨大プールがあるらしい。それは、元々はアーコロジーの貯水槽を兼ねていた施設で、未だに、空調と浄水が維持され、一つのレジャーエリアとして稼働しているそうだ。崩壊後の世界で清潔な水はあまりに貴重であり、その存在を知った旅人、黄昏梟、越夜隊たちが歓喜して集まった結果、この人だかりができていたらしい。
「行ってみるか? 地の泉に」
俺は、シロに聞いた。
「うん!」
シロは、いつも以上に元気な返事をした。その瞳には、好奇心が宿っていた。
地の泉の入り口には、行列ができており、俺たちはしばらく列に並んだ後、施設の中に入った。中には受付があり、入場料の支払いと合わせて、水着のレンタルもできるようだ。
シロは、財布から取り出したお金を握りしめてしばらく悩んだ後、白いワンピースタイプの水着を選んだ。グリルスは、緑のハーフパンツタイプの水着を選び、グリレは、泳ぐつもりはないらしく、受付のみ済ませる。そして、男女で別れ、更衣室に進む。
シロは、初めて着る水着にてこずっていたが、何とか着替えを済ませ、プールに向かった。プールの前には、シャワーが備え付けられており、蛇口をひねると綺麗な水が降り注いできた。シロは、地下探索ですっかり汚れた体を綺麗にする。水が苦手な俺はシャワーの横を素通りする。
シャワーの出口で、グリレとグリルスが待っていた。グリルスは、シロの水着姿を見て、
「眩しすぎるっ!」
と騒ぎながら、両手で顔を覆う。だが、指の隙間から、しっかりとシロの水着姿を覗き見ていた。その隣で、グリレが呆れた顔をしている。
プールエリアに向かうと、そこには、夢のような空間が広がっていた。中央の巨大な貯水槽は、美しい青い水で満たされており、天井から降り注ぐ柔らかな人工の光を反射して、ゆらゆらときらめいている。周囲には、ビーチチェアや観葉植物が並べられており、飲食ができる店まである。
シロは、さっそくプールの傍に向かい、おそるおそる片足を水につけた。
「冷たい!」
シロは、声を上げて一度は足を引っ込めたが、再びゆっくりと足先から水の中に入っていく。
そして、肩まで水に浸かると、感動の声を上げた。
「気持ちいい!」
それを見ていたグリルスが、手を上げて叫ぶ。
「シロちゃん、俺も行くよー!」
グリルスは、そう言ってプールサイドから走り出し、勢いよくプールに飛び込んだ。水しぶきが空中に舞い上がり、プールサイドに座っていた俺とグリレのところまで水しぶきが飛んでくる。俺はぶるぶると体を震わせて水しぶきを吹き飛ばし、グリレは、嫌そうな顔をしながらメガネを拭く。
俺は、隣に座るグリレに声をかけた。
「お前は、泳がないのか?」
「……」
グリレから、返事はない。
「何だ、泳げないのか」
俺がそう言うと、グリレは少しムッとした顔をして、答えた。
「……泳がないだけだ」
そして、グリレは、プールには興味なさそうに、携帯端末を取り出して操作し始めた。俺は、プールへと視線を戻し、シロとグリルスの様子を眺める。
「シロちゃん、こっちにおいで!」
グリルスは、シロに向かって手を振る。
「うん!」
シロは、そう言って前に進もうと泳ぎ出すが、溺れているようにしか見えない。
「大丈夫? シロちゃん!」
グリルスが駆け寄り、手を差し伸べる。
「ぷはぁ……!」
シロは、グリルスの手を掴み、水面から勢いよく顔を出す。そして、顔が濡れたことが面白かったのか、声を上げて笑った。
「あはははっ!」
俺は、数年シロと一緒に旅をしてきたが、こんなに楽しそうに笑うシロを見たのは、初めてだった。シロは、こんな顔で笑うのか。俺は、その笑顔が見れただけで、ここに立ち寄ってよかったと思った。
これから向かう落着点では、何が起きるか分からない。その前に、気分転換ができてよかった。俺は、楽しそうにはしゃぐシロを眺めながら、夏の暑さを忘れさせてくれる贅沢な空間で、束の間の休息を楽しんだ。
(次の話)
【マタタビ】21.落着点
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