白樺 碧②
白樺 碧(しらかば あお)、18歳。
構造生物学の権威、白樺博士の孫にあたります。
飛び級に次ぐ飛び級で、いまは大学院で祖父の研究を手伝っています。
【2枚目~6枚目】
趣味は幼いころ、両親に連れられていったトレッキング。
両親がいなくなってからも、山を歩くのは好きです。
黙々と身体を動かしていると頭が空っぽになって、時間がゆっくりと流れる。
特に山頂にはこだわらず、暇があればいろんな山を巡っていました。
【7枚目】
15歳のとき、両親の研究を引き継ぎたいと白樺博士お願いした碧。
ですが、白樺博士からはそのうちそのうち、といった体で遠回しに断られてしまいます。
しかたがないので、碧は両親の研究データをハッキングします。
(おじいちゃん、デジタルはからっきしだからなあ。このFWの脆弱性をつけば、サーバアクセスは可能……っと。あとは暗号化の解除だけど……いまどき量子耐性ないのか、これはすぐ開くね)
碧が見つけたのは『量子もつれによる非同期同調セルオートマトンの伝播性』という両親の共同論文でした。碧は概論だけ斜め読みして、研究の意図を想像します。
(これっておじいちゃんの研究とくっつけるつもりだよね。最終目標はなんだろう。もしかすると……)
とりあえず、後でじっくり読むことにして、碧はタブレットに論文と、めぼしい研究データをダウンロードしました。他に何か残っていないか、ファイルサーバをAIエージェントにサーチさせた碧は、そこで彼女の名前がついたファイルを見つけます。
ファイル名は『経過観察記録:碧』、ファイルの作成者は碧の父の名前。
一瞬、ぞくりとした寒気を背筋に感じ、碧はそのままタブレットを閉じようかと逡巡します。これはきっと……自分にとっていいものではない、そんな気がしました。
しかし研究者の好奇心に、少量の恐怖程度が勝てるはずありません。
碧はタップしてそのファイルを閲覧してしまいます。
そこには、彼女が6歳から11歳になるまでの、脳のスキャンデータが時系列順に収められており、所々に量子破砕治療の成功だとか、特異点復元といった注記が入っていました。
記録の最後には、おそらく父が残しただろうメモ書きのようなものが残っていました。
碧はこのデータが示す重圧を感じながら、震える指でメモをなぞっていきます。
《脳内にある腫瘍は何度破壊しても、再生してしまう。そして、それは少しづつ成長している。この再生医療が発達した時代に、なぜ脳腫瘍の一つ程度が治療できないのか。恐ろしいのは、これが外的要因で発生している可能性だ。碧のゲノム解析の結果をみても、この種の腫瘍が発生する可能性は0に等しい確率なのに、取り除いてもすぐに再生する。その際、何かの量子的反応が、言い換えればエネルギーの流入が観測される。
……考えたくはないが、これは外部からの攻撃の可能性がある。だが、なぜ碧に? 娘に何があるというのだ? わからない、わかっているのは、このまま放置すれば、娘は二十歳までは生きられないという事実だけ。
救いがあるとすれば、この事象が、この事象こそが、我々の研究を完成させる最後のピースかもしれないということだ。もしアレが実用段階になれば、碧の治療は可能だろう。
事態は急を要する。少々危険でも、研究の規模を拡大しなければ……》
【8枚目】
「キョウハ ホタテ チガウノ?」
辿々しく、しかしはっきりと判別できる日本語で、白いラッコが不服そうに抗議しています。
「キミの食費はさすがにしんどくてね。生ホタテだけじゃうちも破産しちゃうから、オリジナルのドライフードを作ってみたわけだ。どうだろう、結構イケる味なんじゃ?」
「ホタテ ハイッテル?」
「……ホタテエキスは入ってる」
「ホタテ! オイシイ!」
白いラッコはホタテという言葉に反応して、無邪気に喜んでいます。
「ふう……なんとか気に入ってくれたか……」
完食して寝落ちした白いラッコに毛布をかけてやってから、碧はやれやれと額を拭いながらソファにもたれ、18歳の誕生日に買ってもらったレトロゲーム機を起動します。そこには配管工のレースゲーム。
「こういう昔のゲームって、侘び寂びだよね。さて、残りの人生ゲージも少なくなった私だが、まだまだ、あれもこれも、そしてあっちも楽しむぞ! Here we go! 」
※本ストーリーは過去作の「10万いいね御礼」と「枝角ラッコ」からつながっています。
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