約束の岬で――お城に戻ると?
小戸岬に着いた時、ちょうど夕暮れが一番きれいな時間やった。紅蓮に染まる空と海。そして、水平線にゆっくり沈んでいく太陽――
ああ、なんて綺麗なんやろ……思わず、ため息がこぼれた。
そういえば、お母さんとお父さんとお別れしたあの日も、こんな夕焼けやったなぁ。
さっきつけたイヤリングが潮風に揺れて、夕日の光をきらきら受け止めてる。
にぃにが、ここに寄る予定を立ててくれたんよね。……なんか、意味があるんかな?
あの時と同じように、にぃにはウチの少し後ろに立って、そっと見守ってくれとる。
でも、あの時とは違う。ううん、いろいろと……段違いや。
自然と、笑みがこぼれた。
「ねぇ、キレイよね……」
「ああ、とてもきれいだ」
「ねぇ、にぃに。この岬に寄った理由って、聞いてもいい?」
ウチは振り向きながら、にぃにに問いかけた。 もちろん、この景色は大好き。両親と別れたあと、無性に見たくなったくらい、心が洗われる場所やけん……すると、にぃにはちょっと照れたような顔で――
「単純に、一緒に来たかったんだ。また一緒に、この夕焼けを見たかった。そして……伝えたいことがある」
にぃにはウチのそばに歩み寄ってきて、そして――
優しく、ウチを抱きしめてくれた。
ああ……はふ♡ 急すぎるけど、幸せがじわじわ胸に広がってく……
「葵、君は本当に強くなったよ。この国の要って言っても、言いすぎじゃない。ここまで自分を磨いてきたんだ……すごいよ」
「そ、それは……にぃにや、みんなのおかげやもん。それに、ウチ、まだまだ強くなりたいんやき♪ もっともっと、お役に立ちたいもん!」
お、おおお!? 思いもよらんラッキーイベント発生!?
はわっ! はわわっ! って、えええ!?
さらに! にぃにがウチの頭に顔をうずめてきたぁ!? な、なになになに~~~!?
「その……葵の姿に、僕は心から救われたんだ。あの日から、前に進めるようになった気がする。ありがとう、葵……これを、きっかけになったこの場所で伝えたかったんだ……すまない」
真剣な声。ウチはそっと、にぃにの背中に手を伸ばして、ぎゅっと抱きしめ返した。
一緒に、幾多の死線を越えてきた。ウチよりも、ず~~~っと強くて、頼もしくて、大好きな人。
その人が、ウチに「救われた」って…… 心がじんわり、優しさに包まれてく。あったかくて、心地いい――
「謝らんでよ……それに、ウチはまだ満足しちょらんき? この国のためにも、九州のみんなのためにも、もっと強くなりたい。にぃにや、お姉ちゃん、ミント、椿咲、まほと並べるくらいに!」
「うん。僕も手伝うよ。僕も、もっと強くなる。これからも一緒に歩んでいきたい――いいかい?」
「喜んでっ♪ ウチこそ、ずっと一緒に歩みたいけんね♪ にぃ……に♡」
ウチとにぃには、見つめ合って、微笑んで―― そのまま、キスを交わした。
沈む夕日を背に、ウチとにぃには、お互いの想いを確かめ合ったんよ。
ねぇ、にぃに。これからもずっと、ウチ、にぃにのこと――愛しとーけんね♪
* * * *
夜のとばりが街を包みはじめた頃、ウチとにぃには魔王城に戻ってきた。
デート、大満足やったぁ~♪
ディナーはお城でって聞いとったけん、ちょっと安心。
お店でふたりきりも期待しとったけど……これ以上贅沢しちゃったら、バチが当たるかもやしね?
「はぁ~♡ 大満足ばぁ~い♪ ありがと、にぃに♪」
「僕も楽しかったよ。ご両親にも挨拶できて、本当によかった」
んふふ♡ にぃになら、お母さんもお父さんも、きっと納得してくれるよねぇ♪
って、これってもしかして――『娘さんを僕にください!』ってやつ!?
うわぁぁぁ! 超古代でも伝説のシチュエーションやん!
そう思ったら……うん~~~、なんか悶えるぅ♡
「……いいかい?」
「ん? どしたと?」
ウチがちょっともじもじしとったら、にぃにがコートの襟で口元を隠しながら、ぽつりと呟いた。
「ん、そうだな……よし、それじゃラウンジに向かおうか」
「ほぇ? え~~~、なんなん? なんな~ん♪」
これは……なぁ~んか、怪しいっ!
サプライズの匂いがぷんぷんするバイ☆
ふふん♪ でも、このサプライズ! ウチ、真正面から受け止めてみせるけん!
ウチとにぃには、ラウンジの扉をそっと開けて――中へと足を踏み入れた。
呪文
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