触手の森と救いの剣
そこは冒険者たちの間で「快楽の罠」と囁かれる禁断の領域だった。
ギルドの掲示板に貼られた依頼書は、ただの薬草採取を装っていたが、誰もが知っていた——この森の真の脅威は、毒牙ではなく、甘い誘惑だ。
ロランは、埃っぽいギルドのカウンターでその依頼を掴もうと手を伸ばした。
そこそこ腕は立つが、ごく普通のBランク冒険者。
ブロードソードを腰に佩き、革の胸当てと鉄の籠手を纏った彼にとって、Cランクの依頼など日常の糧稼ぎに過ぎなかった。銅貨数枚の報酬—せいぜい今日の安酒とパン代だ。だが、カウンターの向こうで書類を整理していた受付のエルフ娘「リリア」が素早くその手を押さえた。
長い銀髪を揺らし、鋭い緑の瞳でロランを睨む。彼女はギルドの古株で、ロランの馴染み。数えきれない依頼の相談に乗ってきた仲だ。
「ちょっと待ちなさい、ロラン。あんたみたいなBランクがこんな初心者の仕事に手を出すんじゃないわよ。森の薬草採取? それ、Dランクの新入り向けでしょ。ちゃんと実力に見合った仕事しなさいよ。狼退治のBランク依頼が空いてるんだから、そっちを取ったら? あんたの腕が錆びちゃうわ。」
リリアの声は優しいが、たしなめる調子に棘がある。
ロランは苦笑し、手を引っ込めて肩をすくめた。馴染みのエルフの忠告は、いつも的を射ている。
確かに、最近は運の悪い依頼ばかりで、胃袋を満たすのもやっとだ。だが、この森の依頼は、妙に安上がりで、歩合制の薬草分だけでもつまらない金になる。英雄譚など期待せず、ただ明日の空腹をしのげればそれでいい。そんなロランの本音をリリアは見透かしたように溜息をつく。
「まあ、いいわ。気をつけてね。あの森、女の子には優しいけど……男には厳しいかもよ? 触手花の蜜、女性の体液を吸うだけじゃ飽き足らず、男の気配を感じると縄張りを守るために触手を伸ばしてくるの。快楽で体力を奪われて、動けなくなった男の話、酒場で聞いたでしょ? 精を絞り取られて干からびたみたいになるんだから。」
ロランは眉をひそめ、首を傾げた。森が男には厳しい理由—リリアの言葉が、ぼんやりとした記憶を呼び起こす。ギルドの酒場で、酔った冒険者たちが囁く噂。
触手花は女性に甘い快楽を与え、代わりに体液を貪る共存の存在。女性冒険者たちが孤独な旅の性処理に自ら近づくなんて、羨望の的だ。一方、男には嫉妬か本能か、触手で絡め取り、股間を執拗に刺激して精液を強制的に抽出しようとするらしい。蜜の酸性成分が体を過剰に昂ぶらせ、絶頂の連鎖で体力を奪い、森の奥で動けなくなる。女の子には「便利な玩具」だが、男には「命取りの罠」。ロランは鼻を鳴らし、依頼書を掴んでギルドを後にした。リリアの視線が背中に刺さる。ただ今日の糧を稼げればそれでいい。
陽光が葉ずれの隙間から差し込み、苔むした地面を金色に染める。
依頼の薬草を探して歩を進めると、突然、空気が甘く、重くなった。湿った息遣いが木々の間から漏れ聞こえる。ロランは足を止め、うっかり茂みを掻き分けた——数秒の出来事だった。
そこに、彼女はいた。
少女—若い冒険者らしき女性が、巨大な花弁に絡め取られていた。触手花。深紅の花弁から無数の触手が蠢き、少女の軽装備の革鎧を乱暴に剥ぎ、胸当てをずらし、下着の裾を捲り上げている。白い肌がぬめぬめと光り、触手が乳房を締め上げ、秘部を抉る。グチュグチュ……湿った音が響き、少女の唇から「あっ……んんっ……」と甘い喘ぎが漏れる。口元にも触手が絡みつき、喉を塞ぐように侵入している。
一瞬でロランは理解した—いや、誤解した。酒場の噂通りだ。
この少女もきっと、快楽の渦に自ら身を委ねている。革鎧の乱れ具合、腰のわずかな浮き上がり、甘い喘ぎ声……すべてが「楽しんでいる」証拠に思えた。ロランは頰を緩め、内心で呟く。
(おいおい、こんなところで一人遊びかよ。俺みたいな野次馬が邪魔しちゃ、悪いな……)
「お楽しみの最中か……わるかったな。」
ロランは苦笑し、手をヒラヒラと振って目を逸らした。少女の喉から漏れる声は、甘く震え、触手の律動に合わせた喘ぎのように聞こえた。だが——次の瞬間、何かがおかしいと気づいた。数秒の視線で、青い瞳から涙が零れ落ち、もがく手足が土を掻くのがわかった。喘ぎかと思った喉鳴きは、苦悶の呻き。「んぐっ……!」触手が喉を塞ぐたび、声が詰まる。少女の指先が必死に抵抗する。「だ、づ……げて!!!」
その瞬間、世界が凍りついた。ロランは即座に動いた。鞘からブロードソードを抜き放ち、鋼の閃光が森の空気を裂く。花の根元へ—太く脈打つ茎の基部に、剣を突き立てる。刃が肉を抉り、捻り込む。ズブリ、グチャリ……低く鈍い音が響き、切り口から勢いよく噴き出した。
それは、花の尻尾—白濁の汁液だった。酸性の蜜が噴水のように迸りロランの鎧をべっとりと濡らす。胸当てに、肩当てに、滴り落ちるそれは甘い腐臭を放ち肌に染み込む。 (くそ、これ浴びると後で鎧の手入れが地獄だな……) ロランは内心で毒づきながら剣を振り抜いた。
触手が力を失い、萎れた蔓のように弛緩する。少女の体が、ドサッという重い音を立てて地面に崩れ落ちた。花弁が震え、静かに萎れゆく。森は、再び静寂に包まれた。少女の革鎧は乱れ触手の痕が赤く残る肌を覆い隠せない。
彼女の胸が激しく上下し、荒い息が漏れる。「はあ……はあ……ありがとう……」
ロランは剣を拭い、少女に駆け寄った。命に別状はない。ロランは安堵の息を吐き、彼女を抱き起こした。
「もう大丈夫だ。」
少女の瞳が、ゆっくりとロランを捉える。森の風が、二人の間を優しく通り抜けた。だが、この出会いが、ただの救助で終わるものではない——それは、触手花の蜜が予感させるように、甘く危険な冒険の始まりだった。
呪文
- Steps 28
- Scale 10
- Seed 2400587054
- Sampler k_euler_ancestral
- Strength
- Noise
- Steps 28
- Scale 10
- Seed 2400587054
- Sampler k_euler_ancestral