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自作小説「想霊日和」 第一話『幽霊退治のアルバイト』

使用したAI ChatGPT
第一話『幽霊退治のアルバイト』

「知ってる? 幽霊が科学的に証明されるかもしれないんだって!」

「マジ!? どういうこと?」

「この前、“霊気”ってやつが発表されてたでしょ? なんか、それが……」

夕方の交差点。そんな会話がすれ違いざまに耳をかすめた。

月岡詠士(つきおか えいじ)は振り返りもせず、いつも通り歩き続けた。

2010年6月。
夕暮れの光が街を焼くように染め、電柱の影が長く伸びていた。

詠士は大学の帰り道、ふと足を止めた。自販機の横に、奇妙なチラシが一枚貼られていた。

『幽霊見える方 募集/時給:応相談/体験歓迎』

白地に黒文字。住所と電話番号のみ。印刷の滲みが不気味な印象を与えてくる。

(……幽霊が、見える人……?)

眉をひそめたくなるが、詠士は知っていた。

自分は、見えてしまう側の人間だと。

物心ついた頃から。誰もいないはずの電柱の下
そこには、いつも――

“人の形をした何か”が立っていて、詠士に向かって手を振っていた。

初めて“それ”を指さして大人に言ったとき、笑われた。
二度目は、からかわれた。三度目は、距離を置かれた。
母親すら気味悪そうに黙り込み、あからさまに話題をそらした。

「あれは人じゃないから、声をかけちゃダメだよ」
そう言ってくれた近所のおねえさんの言葉だけが、ずっと心に残っている。
真顔で、でも震えながら――あの人だけは、少しだけ、信じてくれたような気がした。

それでも結局、他の誰にも“本当に見える”とは思われなかった。
だから詠士は、いつしか言わなくなった。
見えても何も言わず、何もせず、ただ“避ける”。
誰にも気づかれないように、何も見えていないふりをする。
見えるたびに、自分だけが別の世界に置き去りにされるようだった。


詠士は住所を確認し、胸ポケットにチラシを入れた。

指先が、なぜか軽く震えている。


怖くはなかった。でも、嬉しくもなかった。
心の奥の、もう誰にも触れられないと思っていた部分が、わずかに揺らいでいた。
(……本当に、僕の居場所が、あるのかもしれない)

本来なら、無視して通り過ぎるようなチラシだった。それなのに──

足が、勝手にそちらへ向かっていた。




目的地は、駅から少し離れた古びた雑居ビルの四階だった。
階段しかないその建物は、コンクリートの壁がじっとりと湿り、階段を登るほど空気が重くなる。

四階。銀色のドアに、手書きの木札が掛かっていた。

《想霊相談所》

(……ほんとにあったよ)

ノックしようとした指先が、一瞬だけ止まる。

それでも軽く息を吸い、ノックを三度。

「失礼します……」

ドアを開けると、お香の香りがふわりと鼻をくすぐった。

畳敷きの和室。掘りごたつに、襖。
外の喧騒と切り離されたような、異質な空気が流れている。

詠士が中へと足を踏み入れたとき、ひときわ目を引く存在がそこにいた。

目の前にいたのは、白地に藍模様をあしらった和服姿の女性だった。
結い上げられた長い黒髪。視線は真っ直ぐこちらを捉えている。

ぱっと見、二十代後半。しかし、その瞳と所作には年齢では測れない“深さ”があった。

「いらっしゃいませ。ご用件を伺ってもよろしいですか?」

静かな、澄んだ声だった。

詠士はつい見惚れてしまった。それほど綺麗な女性だった。

「チラシを見て来ました」

「アルバイトの面接でいらしたのですね。どうぞ、こちらへ」

彼女の声に導かれながら、詠士が畳の部屋へ入ろうとした時——

襖がすっと開き、別の人物が現れる。

黒髪ボブにオーバーサイズのジャンパー姿の小柄な女性。腕を組み、どこか不機嫌そうな表情だ。

「凛、お客様です」

「……うちが面接するんですか? まあ、いいですけど」

奥の掘りごたつを指さされ、そこに腰を下ろす詠士。

「幽霊、見える?」

「……はい、見えます」

「じゃあ、これは?見える?」

凛が取り出したのは、中央に穴が開いた遮眼子のような器具。中央が青白くぼんやり光っている。

「青い……光ですか? はい、見えます」

「じゃ、採用」

「え、もうですか?」

「この仕事、見えないと話になんないから」

「……お二人も、幽霊が見えるんですか?」

詠士の問いに、所長が答えようとしたそのとき——再びノックの音。

「お入りください」

現れたのは疲れた様子の中年男性。皺の多いワイシャツ、だらしないネクタイ、目の下に隈。

だが詠士の目は、彼の足元に釘付けだった。

それは——“囚人の鉄の足枷”のような、重くねじれた女の幽霊。
無理やり押し込められたような姿勢のまま、女の身体が小さく丸まっているように見えた。

その球体のような体からは、三本の手が伸び、男の脛に爪を喰い込ませるようにして掴んでいた。

(あれは……)

「佐藤さんですね。どうぞ、お入りください」

所長の声は変わらず穏やかだった。男は虚ろにうなずく。

「最近、何をやっても疲れが取れなくて……病院では精神的なものと……」

彼の視線は地面に固定され、しかし“それ”の存在には気づいていない。


『お前さえいなければ……』
『失敗しろ、失敗しろ……』
『嫉ましい……』

詠士の耳に、冷えた怒気のような声がじわじわと染み込んでくる。
男の表情は虚ろなまま、ただ俯いていた。

「凛、お香を」

「はい」

凛は香炉と線香を取り出し、六本の細いお香を男性の周りに円形に並べる。

その配置はまるで、目に見えない“何か”を囲む結界のようだった。

所長が煙管を吸い、ふっと白煙を吐いた。

煙はゆっくりと幽霊にまとわりつき、その姿を歪ませていく。

「霊気に干渉する性質を持った煙です。嫌がる幽霊が多いんですよ」

女がビクッと体を震わせた。

「ァアア……」と叫び、這いながら後退し、男の足から手を放す。

その瞬間――

幽霊が、ぬるりと動いた。

まるで時間が飛んだかのように、次の瞬間には依頼人の男性の背後から、
その“女”が滑り出していた。

男の体を透けるようにすり抜け、空気を切るような速さで一直線に所長へと向かう。
三本の細長い腕が、風も音も置き去りにして突き出された。

その手が所長の頭部を掴み、ぐい、と引き下ろした。

瞬きをする一瞬の時間。

詠士の心臓が、ひゅっと冷たく締まるのを感じた。
反射的に、手が前へと伸びた。止めようとした。助けようとした。
だが、ほんの一歩すら踏み出せなかった。

白磁のように滑らかな所長の顔を、ぱらりと揺れた長い黒髪が隠す。
その光景を目の当たりにしながら、詠士の足は床に縫い付けられたように動かない。

「……っ!!」
声が出ない。息が詰まる。
足がすくみ、思考が固まり、胸の奥から焦りだけが空回りする。

“見えてはいけないものに触れられてしまった”

手は震えたまま、宙を切った。
何もできない。
その現実が、冷たい水のように身体中を満たしていく。

全身の血が逆流するような感覚。
自分には何もできないことだけが、はっきりとわかる。

(やっぱり――僕は、来るべきじゃなかった)

そう思った、その瞬間だった。


神崎詩音は、まるで予定されていた動きのように、ゆっくりと胸元へと手を添えた。
煙管の先からはまだ微かに香の煙が揺れている。
胸元から、静かに一枚のお札が抜き取られ——
幽霊の額へ、そっと貼り付けられる。

「……静まりなさい」

低く、優しい声だった。

お札が貼られた瞬間、幽霊の身体がぐしゃりと折れたように歪み、全体がビニール袋を丸めたようにグシャリと歪んだ。



音もなく、痕跡すら残さず、針の穴に吸い込まれるように消えた。床には、くしゃくしゃになったお札だけが残った。

やがて、佐藤がゆっくりと顔を上げた。

「……なんだか、楽になった気がします。足も……冷たくない……」

佐藤の顔には、少しだけ生気が戻っていた。

「悪い幽霊が足に取り憑いていました。今夜は窓を閉めておやすみください。お香も差し上げますね」

そう微笑む所長の手から、丁寧に包まれた小箱が渡された。



「……あの幽霊は、おそらく本人すら意識せずに他人からかけられたものですね」

詠士と凛の視線を受けながら、所長は煙管に火をつけた。
白い煙がゆらりと立ち昇る。

「優秀な彼の足を引っ張って、自分の存在意義を得ようとした誰かの“想い”……
それが霊気に触れ、形になったのかもしれません」

「他人の嫉妬が、幽霊になるってことですか……?」

「幽霊とは“意志“の成れの果てですから。呪いというよりも、忘れられない感情の化石ですね」

詠士はその言葉に、なぜだか自分の胸の奥がざわつくのを感じた。

「さて、改めて自己紹介させていただきます。神崎詩音と申します。想霊相談所の所長を務めております。お呼びになる際は“所長”で結構です」

「藍田凛。助手、というか雑用。」

そう言って凛は詠士に水を差し出した。

詠士は背筋を伸ばし、小さく頭を下げた。

「月岡詠士です。大学一年です。チラシを見て、来ました...」

詠士は思わず視線を落とした。

(……俺に、この仕事ができるんだろうか)

掘りごたつの木目がにじんで見える。手のひらはじっとりと汗ばんでいた。
心のどこかで、これはただの“バイト”じゃないと気づいていた。
幽霊が見える。それだけで、ここに来る資格はあるのかもしれない。
でも、“関わる”覚悟は――まだ、自分の中にないような気がした。

それでも、言葉は飲み込まれ、喉は乾いたままだった。


所長が立ち上がり、煙管の火を静かに揉み消した。

「では、さっそくですが——」

「——?」

「一緒に出張除霊に行っていただきます」

「俺まだここで働くって言ってないですよ!?」

「では先ほどの霊をあなたにつけますよ」

「怖いこと言わないでくださいよ....」


____________


この翌年──2011年3月。

かつてない規模の霊的災害が、日本全土を覆うことになる。

「大霊災(だいれいさい)」と呼ばれる、その異変。

数万人規模の死と喪失、そして想霊体の大量出現。
人々の“死”に対する認識と、“幽霊”に対する距離感が根底から変わる事件。

あれは、はじまりだった。
幽霊はもう“見える人だけの問題”ではなくなる。

やがて、国が動き、社会が変わり、
詠士たちの「仕事」は、ただのバイトでは済まされなくなっていく――。



スペシャルサンクス 
とんとんとん様
https://www.chichi-pui.com/users/user_T88yuXxCZn/

昔に趣味で書いていた小説をアップさせていただきました。
完結はしていませんので続くを書いていきたいと思っています。
日曜日と木曜日の23時に投稿できたらいいなって思っています。
コレクションはこちら
https://www.chichi-pui.com/users/user_wwp7GEIwMb/collections/997693aa-a312-4f55-81e7-19e6d840fb41/

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