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夏の終わり、私は山間の村で民俗の記録を続けていた。祭りの手伝いなどを通じて村長と親しくなった頃、ある夜、彼がふいに口を開いた。
「変わった村がある。……紹介してやらんでもないが、書かないと約束してくれますか。」
私は頷いた。記録しないことを前提に語られる話ほど、強く残るものはない。

翌朝、教えられた方角へ向かい、山を二つ越えた先で、谷あいの静かな集落に辿り着いた。山の嶺に隠れるような村、そこが隠嶺村(いんれいむら)だった。入口には一人の男が立っており、私を見るなり軽く頭を下げた。
「聞いております。こちらへ」
案内されたのは、村の外れにある古い宿だった。戸を開けると年配の主人が出てきて、短く挨拶を交わし、そのまま泊めてくれることになった。
「しばらく厄介になります」
そう言うと、奥から少女が顔を出した。割烹着姿で、愛想よく可愛らしい。
小さく頭を下げたその仕草が、どこかぎこちなく、私はほんのわずかに違和感を覚えた。
「宿主(やどぬし)は私です。…あ、宿の主人は父ですが、この家の宿主は私という意味です」
恥ずかしそうに顔を赤らめて彼女が言う。
前の村の村長が教えてくれなければ意味がわからなかったかもしれない。
まれびと信仰の類かもしれない。
彼女の村での役割は「宿す」ことなのだろう。

――夜半、どうにも寝つけず、私は床を抜け出した。家の中はひどく静かで、柱や床板の軋む音だけがやけに大きく響いた。手洗いへ向かう廊下は薄暗く、照明の光もどこか頼りない。
その途中で、彼女と出会った。
彼女は廊下の奥に立っていた。こちらに気づくと、一瞬だけ目を細める。
こんな時間に何を――そう口にしかけたとき、彼女はすっと指を口元に当てた。
「しっ」とでも言うように。
そして、わずかに笑った。昼間に見せたものとは違う、どこか含みのある、薄い笑みだった。
私は言葉を失ったまま立ち尽くす。

彼女はそのまま、私の脇をすり抜けるように歩き、他の客室の前で足を止めた。振り返りもせず、静かに襖を開ける。中は暗いが、確かに別な誰かの気配がする。なぜかそこだけ空気が沈んでいるように感じられた。
すべり込むように中へ入り、襖が音もなく閉まる。

取り残された廊下で、私はしばらく動けなかった。

どれほどの時間が経ったのか、わからない。
廊下に立ち尽くしたまま、私はただ耳を澄ませていた。やがて、微かな音が届く。男女の話し声のようなもの――しかし言葉は判然としない。ただ、ひそやかに交わされる気配だけが、壁越しに滲んでくる。
それに混じって、布の擦れるような音。
私は、無意識のうちに足を動かしていた。
気づけば、襖の前に立っている。閉じられたままのその隙間から、かすかな灯りが漏れていた。ほんのわずかに開いた隙へ、そっと視線を寄せる。

中を、覗き込む。

部屋の奥、灯りのもとに、彼女の姿があった。
昼間と同じ割烹着のまま、こちらに背を向けている。その肩が、ゆっくりと上下していた。背後には、もう一つの影。輪郭は曖昧で、灯りに照らされているはずなのに、どうにもはっきりとしない。

男、のはずだった。

男の影の動きに合わせて、彼女の身体が揺れ、肌のぶつかる音が響く。
同時に男女の吐息と喘ぎ声が漏れる。

彼女が、小さく何かを囁く。
すると、その影が彼女と更に密着し、動きを速める。

――応じているのか。

その瞬間、彼女がふと、こちらを振り返った。

目が、合った。

覗いているはずの私の視線を、正確に捉えていた。薄暗い中で、その瞳だけが妙にくっきりと浮かび上がる。
そして、彼女はまた、あの笑みを浮かべた。
今度は昼でも夜でもない、どこにも属さないような笑みだった。
指を、口元へ。

「しっ」と。

声は聞こえないのに、その仕草だけで、はっきりと伝わる。
――秘密。

そのまま、彼女は何事もなかったかのように、男との行為に耽る。
吐息が漏れる。甘く、かすかに熱を帯びた息が、静かな部屋に溶けていく。
少女というにはあまりにも大人びた言葉にならない声が、断続的に部屋の中に満ちていく。
その声には、苦しさだけではない響きがあった。
どこか、委ねるような――いや、むしろその奥に、ほのかな歓びの色が滲んでいる。
流れに身を預けるように肩が揺れ、おさげが揺れるたび、その表情が一瞬だけ灯りに浮かび上がる。
薄く開いた唇。細められた目。
それは昼間に見せた表情とはまるで違う、どこか陶然とした、柔らかな崩れ方だった。
――楽しんでいる。
彼女の指先が、敷布を掴む。
少しでも長く快楽を得るために、押し寄せる絶頂を拒んでいるかのようだった。
男の動きが更に激しくなる。
また彼女が男にむかって囁く。
「…きてっ…!」
獣のような男女の喘ぎ声の中に、その言葉がはっきりと聞こえた。
男が彼女の最奥で身震いすると、二人同時に喘ぎながら絶頂を迎えた。
男女の結合部から白濁した粘性のある液が溢れ出す。
恍惚とした表情の彼女と目が合う。
――喜んでいる。

その後も男女は幾度となく求めあった。
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企画参加させていただきます。
ファウスト・パンツァー様企画「淫隷村」
ハード好き様企画「汁だく」
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