竜顕の魔人と新たな仮説
魔界原生の魔人であるマミラス・ムティホフマン夫人は、
古くから“竜の魔力”を血脈に宿すヴォルプフルーク家に生まれた。
角と魔核を備えた典型的な魔人だが、火竜クルーゼンとの〈魔心契約〉を結んだことで、
竜力を自在に扱う二つの術を会得している。
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■ 〈竜力宿身〉――竜との同化
竜の魔力を体内に迎え入れると、
角が蒼光を帯び、ついで鱗紋・尾・翼へと段階的に竜相が顕れる。
魔族の古い記録ではこれを “竜顕” と呼び、
最終段階では魔人としての外見がほぼ消えるほどだ。
だが、この異形は端的に言えば
“魔人が竜へ寄っていく現象” である。
歴代当主の中には竜力を制御しきれず、
そのまま“竜”として生涯を終えた者も記録されている。
魔族史の学者たちは近年、ひとつの仮説を提唱している。
> 「知能を持つ亜人の一部は、
魔人が竜的属性へ変化した“成れの果て”の子孫ではないか?」
魔人・亜人・ひいては人族も含むーーすべての種が遠い古代には
“分かつ前の一つの種” だったのではないか、という大胆な説であり、
いまだ論争は尽きない。
竜力宿身は、その仮説を裏付ける“現象”として
魔族研究の中心に据えられている。
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■ 〈魔力譲渡〉——竜に戦権を委ねる戦法
もう一つの術が、自身の魔力を
クルーゼンへ“全権委譲”する危険な戦法である。
その瞬間、火竜は戦場を蹂躙する災害と化し、
魔界でも屈指の破壊力を誇る。
ただし代償として、夫人自身の戦闘力は
“普通のお母さん”程度 にまで低下してしまう。
この脆弱な時間を守るため、夫人は戦災孤児を引き取り育て、
忠誠に篤い近衛へと育成している。
周囲は彼らを 「ムティホフマンの子供達(キンダー)」 と呼ぶ。
王国正規軍がスカウトに訪れるほどの精鋭も多いが、
夫人の怒りを恐れて交渉はきわめて慎重に行われる。
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■ 竜と魔人、その境界線のゆらぎ
竜力宿身と魔力譲渡ーー
この二つの術を扱うマミラス夫人の存在そのものが、
> “魔族と亜人、人族は、遠い古代において同根だった”
という古い伝承の裏付けと見なされつつある。
そして今日も夫人は、
魔界の片隅で子供たちに囲まれ、
時に叱り、時に抱きしめ、
竜の血脈と魔人の魂ーーそのどちらも抱えて暮らしている。
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呪文
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