本日のランチ
店へ入ると、味噌の焼ける香ばしい匂いが厨房から流れてきた。
昨日の鮪と長芋は、冷たい器に赤と白を映した涼やかな一鉢だった。今日はそこから一転して、焼き台の熱と、味噌のコクを楽しむ温かな御膳である。
主皿に並ぶのは、厚く切った丸茄子の田楽。
濃い紫色の皮に囲まれた丸い茄子の上へ、鶏ひき肉を混ぜた味噌が薄く載せられている。表面にはほどよい焼き色が付き、白胡麻と木の芽が添えられていた。
鶏味噌を盛りすぎず、丸茄子の厚みと艶をきちんと見せているのがいい。
まずは、箸を入れてみる。
紫の皮を越えると、茄子の果肉は驚くほど素直に崩れた。
口へ運べば、熱を含んだ身がとろりとほどけ、丸茄子らしい穏やかな甘みが広がる。油を強く吸わせた重たい仕上がりではない。焼くことで水分を保ちながら、果肉そのものをやわらかく引き出している。
そこへ鶏味噌が重なる。
味噌のコクに、鶏ひき肉の旨みが加わり、野菜料理とは思えないほど味に厚みが出た。
ただし、肉味噌が主役になっているわけではない。
鶏ひき肉は細かくほぐされ、味噌の中へ自然になじんでいる。茄子を覆い隠すのではなく、その甘みを押し上げる役目に徹しているのだ。
味噌は甘すぎず、塩辛すぎない。
最初に焼けた味噌の香ばしさが立ち、続いて鶏の旨み、最後に丸茄子の甘みが残る。見た目は力強いが、味の重なりは丁寧である。
生姜もよく利いている。
鶏味噌のコクが舌に残りかけたところへ、生姜の辛みが細く入り、後味を軽く整える。
さらに木の芽を一緒に噛むと、青く爽やかな香りが鼻へ抜けた。
味噌田楽は、ともすれば甘さと濃さが最後まで続く料理になりやすい。しかし、生姜と木の芽を加えることで、ひと口ごとに味が締まり、自然と次の箸が伸びる。
添えられたししとうは、軽く焼かれている。
茄子のとろりとした食感に対し、ししとうには皮の張りと青い苦みがある。かぼちゃの甘みも加わり、主皿の中だけでも食感と味の変化が楽しめた。
白いご飯との相性は、言うまでもない。
丸茄子を少し崩し、鶏味噌とともにご飯へ載せる。
茄子の水分と味噌の旨みが米粒へなじみ、ひと口で田楽らしい満足感が生まれる。濃い味噌だけで飯を進めるのではなく、茄子の甘みが間に入るため、味が尖らない。
小鉢は、冷やしトマトとオクラの出汁びたし。
温かな田楽のあとに食べると、トマトの酸味と冷たい出汁が口の中を明るく切り替えてくれる。オクラの歯ざわりと自然なとろみも、焼いた茄子とは異なる夏野菜の表情を見せていた。
汁物は、豆腐と若布の澄まし汁。
主皿に味噌を使っているため、味噌汁を重ねず、澄んだ出汁でまとめている。鶏味噌の余韻を洗い流しすぎず、膳全体を静かに整える一椀である。
丸茄子が主役の料理だが、軽い野菜料理という印象では終わらない。
とろける果肉。
鶏味噌の旨み。
焼けた味噌の香ばしさ。
そこへ生姜と木の芽が加わり、コクのある味を夏らしく引き締めている。
七月最初の一週間は、混ぜご飯から始まり、冷たい魚、炒め物、ちらし寿司、酒蒸し、山かけと、さまざまな温度と食感を味わってきた。
その締めに置かれたのが、この丸茄子の田楽である。
華やかさで押すのではなく、火を入れた夏野菜の甘みをじっくり味わわせる。野菜が主役でありながら、食後にはきちんとした満足感が残る。
丸茄子の厚みを生かした、香ばしくも端正な一膳だった。
【次回予告】
次回は「鯛とオクラの冷やしすり流し御膳」。
丸茄子と鶏味噌の温かなコクから一転。鯛の白身を、オクラと昆布だしの淡い緑がやさしく包みます。冷えた鉢の縁、自然なとろみ、酢橘の細い香り。白と緑で味わう静かな涼味にご期待ください。
田嶋達郎
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