苺と眠気と温かい飲み物
銀髪をふたつに結った少女が、苺の絵が描かれたマグカップを両手で持ち上げ、ふにゃりとした表情でこちらを見ていた。カップからは湯気が立ち上り、甘い香りが部屋に漂っている。
「飲めるよ。ちゃんと蜂蜜も入れたし」
「蜂蜜? どろどろの?」
彼女は怪訝そうに眉を寄せた。その赤い瞳は少しだけ焦点が合っていない。パジャマの袖から覗く指先が、カップの温かさを確かめるようにきゅっと力を込める。
「蜂蜜はとろとろで、甘くて、元気が出る魔法の汁だよ」
「魔法の汁。ふーん……」
彼女は納得したのかしていないのか、ゆっくりとカップに口をつけた。湯気で少し鼻先が赤くなっている。一口飲むと、ぱっちりと目が開き、頬がわずかに上気した。
「おいしい」
「でしょ?」
「うん。でも、これ一口飲んだらもっと眠くなっちゃいそう」
彼女はカップを抱えたまま、再びとろんとした目つきに戻る。どうやら、温かさと甘さが彼女の戦意を完全に喪失させたらしい。
「まだ寝るのは早いよ」
「だめ、あくびが止まらないの。……ふぁぁぁ」
彼女は大きな口を開けて欠伸をすると、そのままマグカップを枕元に置こうとして、ふらりとこちらに倒れ込んできた。そのまま彼女の体重がこちらに預けられる。
「……重いんだけど」
「動かないで。……あったかいから」
彼女はそのまま、苺の香りだけを残して微睡みの世界へと落ちていった。結局、この魔法の汁は、彼女を眠りへと誘うためのものだったらしい。
呪文
入力なし