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水沢 澪那(みずさわ みおな)の場合

ふわり、と空気が甘く淀んでいくのを感じた。
参考書の数式が霞み、シャープペンの芯がポキリと折れる。窓の外で夕闇が濃くなり、図書室の蛍光灯が微かに明滅した。ほのかなカビの匂いとインクの香りが混じり合い、まるで古い辞典を開いた時のような埃っぽい温もりが胸いっぱいに広がる。そこへ──

(……先生の指先)

彼がページをめくる乾いた音が不意によみがえった。
昨晩見た夢の残滓が意識の底から這い上がってくる。あの逞しい腕が背後から覆いかぶさり、ノートの上に伸ばした私の手をそっと包み込む感触。分厚い掌から伝わる体温が教科書の文字を焦がすように炙っていく。夢だと知っていたのに抗えなかった。

『澪那さん』

低く掠れた呼びかけが耳朶を打ち、首筋に熱い吐息がかかった。反射的に閉じた瞼の裏で火花が散る。この机の上で私が彼に跪いている図が鮮やかに浮かんだ──革靴に触れた瞬間のひんやりとした硬質感、ブレザーの隙間から漂う汗と石鹸が混じった雄の匂い。必死に開いた唇で彼を受け止めると、鉄錆のような苦味が舌を刺した。喉奥まで押し込まれる圧迫感が逆流しそうな衝動を抑えきれず、

(ああ……こんなこと)

理性は崩壊寸前だった。椅子の上で膝を抱え直す動きに合わせてプリーツスカートがさらりと鳴る。呼吸が乱れてもなお静寂を保つ図書室で、私の胸の高まりだけが異常なほど騒いでいる。指先は無意識に腿の付け根を辿り始めていた。本棚の影で震えながら交わされる秘め事に想いを馳せると、頬が灼けるように火照るのがわかる。

もし本当にそうされたら?
あの熱くて張り詰めたものを私はどれほど深くまで飲み込めるだろう。
喉仏が上下するたびに彼の息遣いが荒くなる音が頭の中でリフレインする。歯列を軽く当てられた時の微かな振動。舌の表面で感じた太さと脈打つ血管のざらつき。嗚咽に近い喘ぎが自分の喉から漏れている気がして慌てて口を押さえた。

(いけない……私、どうかしてる)

それでも妄想は止まらない。
床に四つん這いになり、唾液と涙でグチャグチャになった顔を晒す自分。彼の腰使いに翻弄されながら髪を掴まれて激しく揺さぶられる快楽。口内の粘膜が灼かれそうなほど膨張し、ついには白濁の奔流が喉を直撃する瞬間。溺れかける苦しさと征服される悦びが混ざり合い、全身が戦慄く――

呪文

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