2人の音を重ねて
3年生が抜けたばかりの吹奏楽部は、新体制で初めて臨む秋のコンクールに向けて毎日練習に励んでいた。
部のサックスパートは2人の3年生がいたが、今はユキさんと僕の2人だけになった。
音楽室に入る僕を見るなり、ユキさんが楽器を手に立ち上がる。
「今日は天気良いから、屋上行こう!」
ユキさんは屋上がお気に入りで、たまに1人で自主練している。でも僕が誘われるのは初めてだ。
屋上に上がると、気持ちのいい風が吹いていた。グラウンドではサッカー部が声を上げている。
2人で音を合わせる。
アルトサックスの音色が風に乗って空高く舞っていく。
目を閉じてサックスを吹くユキさんに、つい視線を向けてしまう。
(なんだか、今日のユキさん、いつもより…)
「こら、ピッチがズレたよ!集中しなさい!」
ユキさんは僕のミスを聴き逃さない。
「あー…いやごめんね。怒らなくてもよかったか。もう1時間やってるし、疲れたよね」
そう言うとユキさんは立ち上がって、手すりにもたれた。
夕日を背に笑うユキさんは、なんだか大人びて見えた。
「ここの風、気持ちいいでしょ」
「うん。初めて来たよ」
「人を連れてきたのは初めてなんだ」
そう言うとユキさんは、じっと僕の顔を覗き込み、またいつものように笑った。
呪文
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