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『あの姉 旅情編』(再掲有)

使用したAI Dalle
あの姉が背中で語っていた。
ロボはまた進化しているし、知らない間に「新しい旧いテレビ」も増えている。どうやってそのブラウン管の受像機にリアルタイムの地デジ放送を変換して映しているのかが気になる。が、姉は謎にそういう技術を獲得してほとんど活かさないまま先月26を迎えたロボだ。背中で語っていた姉が実際に口で語った。聞けば、ゆりっぺという数少ない地元の友達を巻き込み、即売会で自作の薄い本を売り捌き、巨万の富を得たのだと言う。あんな病んだ絵柄で。ロボだのメカだのの話で。それで、三重の赤いおじさんに会いに行くから、よそ行きの服を貸せと言うのだ。嫌だ。年柄年中洗えもしないロボを着ている姉に、私の服を着られたくない。てか即売会のときに着てた作業着あるじゃんと言ったのだが、そういうことではないようだ。姉は本当は、おじさんの娘に会いに行くつもりなのだ。おじさんはモデラ―気質の自動車整備屋さんで、昔うちを訪ねて来た人だ。中学生だった姉のためにオレンジの機ぐるみを作ってくれたり、FRPの加工法を教えてくれたりと何かと面倒見がよく、うちの父とゴルフに行くほど家族ぐるみの付き合いをしていた頃もあった。おじさんの娘は姉より2つ下で、私の2つ上。うちに来たこともある。今はおじさんの工場の看板娘として働いていて、おじさん自作の赤い看板ロボはもう用済みのようだと聞くけど、そういう話を聞いたのも5年ぐらい前。姉が三重大を中退してきてニートになった頃のことだ。

結局姉は、母のダサい服を着て出かけ、近鉄特急のちょっと高いシートに乗った。姉なりの巨万の富に気を良くしたのと、どうせあの特急の顔がロボっぽいとかの理由からだろう。
だがその特急は、おじさんの整備工場のある町・桑名には停まらないやつだった。ニート歴の長さゆえか名駅でデラックスシートだかの発券機に手こずり、発車チャイムに慌てて顔だけを見て姉が飛び乗ったその特急は賢島行きだったのだ。発券した指定券の席すらない車内で、姉は巨万の富を使って車掌の持つメカに人力発券してもらい、昨夜語っていた計画とはまるで違う行動に出たのだった。

行き先は大阪日本橋。
インディーズ特撮モノを何度か出しているあの店で、最新作の主役を演ったよく知らないアイドルのトークイベントが開かれるらしい。

姉なりの緻密な計画は早い段階からどんどん崩れ、全然別物に変わってしまった。歯車が狂ったロボだから仕方ないのだけど、もしかしたら姉は今回、三重の赤いおじさんの娘とは会えなくて正解だったのかも知れない。

(つづく)

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