明鏡止水の師匠とケルトのイヤリング
「ねぇ、にぃに♪ 今度、バイクでツーリングしてみらん?」
「お、それも楽しそうだな。僕にも乗り方、教えてくれ」
「もっちろん♡ ウチに任せんしゃい♪」
いつもはにぃにに鍛えてもらいよるけど、今度はウチが先生やけんね♪ ふふっ、また楽しみがひとつ増えたっちゃ!
それから街に下りてからは、お世話になった聖域の精霊様に挨拶へ♪
地下の地底湖におわすウィンディーネ様のところへ向かう事に。にぃにが用意してくれたお菓子とお茶で、三人でお茶会ば開いたとよ♪
にぃに、事前にアポ取ってくれとったんやね。さすがやん!
ウチが『明鏡止水』の境地を掴むために、ウィンディーネ様のもとで修行したの、懐かしかぁ。
あのときのおかげで、ウチも戦えるようになったし、ほんとに大恩あるお方っちゃ。
『にしても、ラーヴィ坊やはほんにたらしやねぇ。誰かひとりでも不幸にしたら、丘で溺れさせるけんね?』
「誰も欠けることなく、幸せにしますとも」
『ほぉ~う♪ 言うたねぇ~。まぁ、せいぜい頑張りんしゃい、色男さん♪』
う~ん、今ウチはめっちゃ幸せ感じとるけど、そうやね。ウチだけやなくて、みんなで幸せにならんと、ウチらの覚悟はほんとの意味で報われんけん。
「ウィンディーネ様、大丈夫です。ウチ、今すっごく幸せやし、他のみんなも、きっとそうなりますけん♪」
ウィンディーネ様は、上品な微笑みを浮かべてくれて――
『葵や、16歳の誕生日、本当におめでとう。これからも健やかにね。鮫鬼ちゃんにも、よろしく伝えておくれ♪』
「はいっ、しっかりお伝えしますね!」
ウチはにっこり笑って返事したっちゃ。それに、お土産までたくさんもろうてしもうた。
心の奥から、ぽかぽかしてくる。 ほんとに、いろんなことを教えてくださって、ありがとうございます――
* * * *
聖域を出たあとは、天神でショッピングデート♪ 馴染みのお店に入ったウチたちは――
「葵様に、ラーヴィ様♪ 本日もお越しいただき光栄ですわ~♡」
店長さんとは、もうすっかり顔なじみ♪
マナのアミュレットとか、戦いに役立つ小物を扱っとって、任務でもめっちゃ重宝しとるお店なんよ。 冒険者たちの間でも評判の、ご用達ショップっちゃ!
「さて……僕のプレゼントは、このお店の物を一緒に選ぶってことでいいのかい?」
ちょっと戸惑い気味に、にぃにが尋ねてきたけん、ウチはニヤッと笑って――
「うん♪ 2人で選んだアイテムが、ウチは欲しいっちゃ♡」
「はわわっ、『黒き閃光の公女様』と『銀髪の死神様』のお目金にかなうアイテムを!? 裏部屋の特選品も、すぐにご用意いたしますぅぅぅ!!」
あらら? 店長さん、気ぃ遣わせてしもうたかな?
でもまぁ、気にせんでよかよね♪ さぁ、物色開始っ!
ん~♪ どれもこれも、キラキラしとって目移りしちゃう~!
* * * *
セーフティリングに、呪い防止のアミュレット、それから……魅了防止のチャーム?
そいえば、今まで任務の目的に合わせて来とったけど……改めて見ると、ここの品揃え、ヤバすぎん?
「伊達に“最強の魔王様”が治める福岡ですからね~♪ あっ、この『一回だけなら死んでも蘇生できるリング』なんて、超レアですけど、ご用意してますよ~♪」
「ここの店長さん、たしか超古代の遺跡をトレジャーハントしてたらしいからな。そりゃ、生半可な品は置かんわけだ」
「まぁ♡ ラーヴィ様からお褒めの言葉をいただけるなんて……店長冥利に尽きますぅぅ!」
マ?……やっぱすごすぎるって……!
――ん? これ、なんやろ?
ふと目に留まった、不思議な文様のイヤリング。なんか、胸の奥がじんわりする。これ……なんやろう?
「ん? ケルト文様のイヤリング……この品は?」
おっ、にぃにが食いついた! ケルト文様って言った?
ウチには詳しいことわからんけど、ピンクがかった金属……これ、もしかして超古代の金属やない?
「はぁい♪ このイヤリングはですね、西の大陸の、さらにその西の果てにある遺跡で発掘されたものなんです~。素材は『ミスリル銀』って呼ばれる、超希少な金属でして……えっと、効能は……なんだったかな?」
西の果て……それって、にぃにの故郷の近くやない?
しかも、にぃにがこのイヤリングの形を知っとるってことは――
「これ、ください」
ウチ、迷わず言った。このイヤリング、不思議な温もりがあって、デザインも心に響く。
それに――にぃにの記憶に繋がるものなら、なおさら大事にしたい。
「いいのか? 葵。ミスリル製なのは間違いないと思うけれど」
「うん。にぃにの記憶に繋がるこれが、ウチは欲しいっちゃ。にぃに、ウチこれがいい」
「わかった。店長、これをお願いできるかい?」
ウチらのやり取りを聞きながら、店長さんは満面の笑みで――
「もちろんですとも! 葵様にお使いいただけるなんて、光栄の極みですぅぅ!」
イヤリング、無事に購入~♪ ウチはすぐに、にぃにに手渡して――
「ね、つけて欲しい。……いい?」
「ん? ああ、わかった。ちょっと待ってくれ」
にぃにがそっと近づいて、ウチの耳にイヤリングをつけてくれる。
その指先が、ウチの耳にふれた瞬間――ピクンッて、体が反応してしまった。
にぃにの息づかいが、すぐそばにある。その指先から、優しさがじんわり伝わってくる……
ああ、愛する人の仕草ひとつひとつが、こんなにも尊いなんて。
ウチ、今どんな顔しとるんやろ……?
「……尊みオーラで浄化されちゃうぅ♡」
店長さんが謎のテンションで震えてたけど……にぃには、そっとイヤリングをつけ終えてくれた。
ウチはすぐに鏡をのぞき込んで―― あっ♪ これ、めっちゃ好きっちゃ!
「ね、にぃに♪ どう?」
「うん、びっくりするくらい似合ってる。良かった……葵にぴったりのプレゼントができて」
ウチとにぃには、にっこり笑い合った。店長さんは、なぜか号泣してたけど……あははっ♪
プレゼントを買ってもろうたあと、車に乗り込んだら、にぃにがぽつりと――
「城に戻る前に、小戸岬の夕焼けを見に行こうかと思うが……どうする?」
「ん! 行きたいっ♪ お願い、にぃに♪」
「了解だ。それじゃ、向かうよ」
小戸岬――ウチが「強くなりたい」って、にぃににお願いした、あの場所。
ゆるりと動き出した車は、海沿いの道を走って、小戸へと向かっていった――。
呪文
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