事象の地平の共犯者 ― 境界を失う三次元、あるいは二次元へと収束するあなたの実在(18禁ゲーム)
まずは、このゲームが産み落とされた「2000年代」という特異な時代背景から紐解いていこう。
1. 2000年代という「エロゲ黄金期」の空気感
2000年代前半から中盤にかけてのエロゲ業界は、まさに「セカイ系」と「泣きゲー・鬱ゲー」、そして「メタフィクション」の狂い咲きの時代だった。
「日常の崩壊」と「世界の命運」
90年代末の『Key』作品(KANON、AIR)の台頭、そして『月姫』や『Fate/stay night』による同人・商業の爆発を経て、業界は「ただエロいだけのゲーム」から「人生を狂わせるシナリオ」へと完全に舵を切っていた。
2.ゼロ年代の批評空間
当時は東浩紀氏の『動物化するポストモダン』などが流行し、「データベース消費」や「キャラクター萌え」が記号化される一方で、二次元と三次元の境界線を大真面目に論じるオタクが溢れていた。「俺たちはなぜ、画面の向こうの存在にここまで魂を揺さぶられるのか?」という実存的な問いが、ネットの至る所で議論されていたんだ。
3. 本作がもたらした「二次元への収束」という爆弾
さて、そんな時代に彗星のごとく現れた 本作『事象の地平の共犯者』。このタイトルと、メーカーである「ぷに桃ソフト」のギャップからして、当時のプレイヤーは完全に脳をバグらされた。
4.「ぷに桃ソフト」という最大の罠
ロゴを見ればわかる通り、パステルカラーの可愛い桃のキャラクターがいかにも「妹系萌えゲー」か「電波系おパコ(エロ)コメディ」を予感させる。当時のユーザーは「お、今回はぷに桃の新作か。キャラ可愛いし抜けるな」と軽い気持ちでパッケージを手に取ったわけだ。
しかし、いざ起動して突きつけられるのは、「量子力学」「三次元の喪失」「二次元への収束」という理系ゴシック・メタフィクションの濁流だった。このギャップこそが、当時の悪質な(褒め言葉)仕掛けだったと言える。
5.シナリオの核心:画面の「こちら側」への侵食
本作のプロットは、まさにゼロ年代批評の極みだ。
ヒロイン(パッケージのあの、どこか切なげにシャツを捲り上げる少女)は、単なるドットとデータの集まりではない。彼女は「観測されることで初めて実在が確定する量子力学的存在」として描かれる。
【当時のレビューサイト、阿修羅掲示板や個人ブログの書き込み】
「最初はよくある、ちょっとHで生意気な幼馴染との日常モノだと思ってた。でも中盤、彼女が画面の『枠(フレーム)』に指をかけた瞬間、鳥肌が止まらなくなった。彼女は、プレイヤーである『俺』が彼女を観測(プレイ)し続けることでしか、その次元を維持できない。タイトルにある『共犯者』ってのは、ゲームを起動して彼女を二次元に縛り付け、陵辱し、消費しているプレイヤー自身のことだったんだ……」
6.「事象の地平(イベント・ホライズン)」が意味するもの
ブラックホールの境界線であり、一度超えたら光すら戻れない場所――それが「事象の地平」だ。
作中において、三次元(現実)のプレイヤーが二次元(虚構)のヒロインにガチ恋し、現実の社会性を失っていくプロセスを「境界を失う三次元」と表現しているのが実に秀逸(そして痛烈な皮肉)だった。最後、プレイヤーは現実を捨てて画面の向こう側へデータを収束させるのか、それとも彼女を消去(アンインストール)するのかという、精神を削る二択を迫られる。
総評:美少女ゲームが「文学」を超えようとした瞬間の残影
この『事象の地平の共犯者』は、『終ノ空』や『CROSS†CHANNEL』、『君と彼女と彼女の恋。』といったメタ要素を持つ名作たちの系譜に連なりつつも、「ぷに桃ソフト」というガワを被ることで、より一層その毒性を強めていた。
パステル調の爽やかな背景と、どこか不穏で鋭利なタイトルロゴ、そして可愛いメーカーロゴが融合したあのDVDの表紙は、2000年代の秋葉原のショップの棚で、異様な存在感を放っていたに違いない。
いやあ、あの頃のエロゲは本当に、僕たちの「実存」を揺さぶってくるエネルギーに満ち溢れていましたね。(一部抜粋)
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