藤咲翠 Ep.Ⅰ『書肆に咲く若葉』Scene 3
眼前に広がるのは、未だ誰の手にも触れられたことのない清廉さを湛えながらも、甘い蜜を蓄えて今まさに弾けんばかりに熟れた、二つの果実。それは、私という渇いた旅人にこそ食してほしいと願うかのように、静かに、そして誇らしげに並んでいる。
彼女は、零れ落ちそうな哀願の眼差しで私の顔を見上げ、その柔らかな果実を差し出すように身を寄せてくる。
無意識のうちに伸びた私の指先が、禁断の果実を摘み取るべくその肌へと触れた瞬間。
掌に伝わる、驚くほどに儚く柔らかなその感触に、私が辛うじて繋ぎ止めていた理性の糸は音もなく溶け去り、夜の深淵へと消えていった。
呪文
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