第五次聖杯戦争 ~赤主従のif~
もしも、アーチャーが"退去しない" ~ if ~があったなら ⚔️
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夜が明けたばかりの空は、薄い灰青色からゆっくりと黄金の光を帯び始めていた。
柳洞寺の庭...草はまだ戦いの痕跡で焦げ、空気には冷たい朝の湿気と、遠くに残る魔力が混じっている。
アーチャーは紅いコートの袖を軽く払うと、隣に立つ凛を静かに見下ろした。
彼女の制服は裂け、黒いタイツにも穴が開き、長い髪は結い直す暇もなく朝の風に揺れている
。額には、まだ乾ききらない汗の跡が残っていた。
「まったくなんて格好だ…着替えた方がいいんじゃないか? 凛。」
低い声は、いつもの皮肉を含みつつも、どこか穏やかだった。凛は彼の言葉を聞いた瞬間、口元を緩めた。
そしてアーチャーの姿をゆっくりと見上げる。
彼のコートもアーマーも同じく裂け、煤がつき、白髪は少し乱れている。
「あーら? その台詞、そっくりそのままお返しするわ、衛宮君?」
凛は軽く腰に手を当て、呆れたように、しかし楽しげに笑った。
「私の服を指摘する前に、自分の姿をちゃんと見てみなさいよ。
あの立派な投影剣士が、こんな無様な格好で立ってるなんて……ふふ、意外と人間らしいじゃない。」
アーチャーは小さく息を吐き、視線を朝焼けの空に向けた。
「……遠坂。お前が最後まで無理をしたせいで、こうなったんだろう。」
「あら、責任転嫁? でもまあ、いいわ。サーヴァントがマスターを守るのは契約のうち、
なんて顔はしないでよね。」
凛は一歩近づき、アーチャーのコートの裂け目に指先を軽く触れた。
魔力の残滓はもうほとんど冷たくなっている。
「……本当に、消えなかったのね。」
彼女の声が、少しだけ低くなった。アーチャーは黙って空を見上げた。
本来なら、聖杯戦争が終わった瞬間、彼の存在は霧散するはずだった。
契約は切れ、この時代に留まる理由などなかった。
だが、最後の最後で――彼は、自分の意志で「残る」ことを選んだ。
「……消えるつもりだった。だがな。」
彼は、凛の髪に絡んだ草の葉を、無造作に指で払った。
「遠坂が『まだ終わってない』って顔をしていたからな。」
凛は一瞬だけ目を見開き、すぐにいつもの調子に戻した。
「ふん。まあ、いいわ。しばらくは遠坂家の『居候アーチャー』として働いてもらうわよ。
食事代と部屋代は、もちろんきちんと請求するから。」
「……相変わらず計算高いな、遠坂。」
「当然よ。私は遠坂凛だもの。」
二人は並んで立ち、夜明けの空をしばらく見つめた。
遠くで、小さな魔力が静かに消えていく音がした。
もう、戦いは終わっている。アーチャーが、ふと呟く。
「……次は、ちゃんと着替えろ。その格好では、落ち着かない。」
凛は、彼の方をちらりと見て、くすりと笑った。
「わかったわよ、衛宮君。……でもね。同じことを言うなら、まずはあなたが先に着替えなさい。
私の『お返し』は、まだ終わってないんだから。」
朝の風が通り過ぎ、焼けた草の香りを運んでいく。
二人の影が、夜明けの光に長く伸びていた。
――もし、アーチャーが退去しなかったら。
そんな、ほんの小さなIFの続きが、静かに始まろうとしていた。
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